ノースシー・ジャズ・フェスティヴァル1984
ノースシー・ジャズ・フェスティヴァル1984
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CDが売れない元凶&完成数歩手前のスリル満点ライヴ
North Sea Jazz Festival 1984 (Sapodisk)

 公式・非公式いずれの音源を問わず、何回目あるいは何十回目かのリピート期に入って久しい。最近では、コレクターズ・エディションと称する高価なボックス・セットが「当たり前の顔」をして闊歩するようになった。オリジナル・アルバムに大量の未発表テイクやライヴ音源を加え、まったく新しいアイテムにつくり変える。問題は、求められているか否かということだが、CD産業も遂にここまできたかということでしょう。

 個人的には、ボーナス・トラックやリマスターには触手が伸びかねます。だって結局は、そうそう頻繁に聴かないんですから。ジャズではありませんが、具体的な例として、最近ではローリング・ストーンズ『メイン・ストリートのならず者』のコレクターズ・エディションというセット物が出ました。ちょっと迷いはしましたが、結局は買わなかった。買ったところで、どうせ何度も聴くのはオリジナルの『メイン・ストリートのならず者』の部分だけだし、そんなふうに考えていくと、発売される点数に比して購入するアイテムは激減していくという現象が起こり、つまりはこれが「CDが売れない」とされる元凶なのかもしれません。要するに出し過ぎてるだけなんですよ、レコード会社さん。

 そこで今回ご紹介するマイルス盤だが、1984年7月15日、オランダ、ノースシー・ジャズ・フェスティヴァルでのライヴ。おいおい、前に出てたじゃないか。こういうのこそオマエが忌み嫌うリピート物じゃないのか。ええ、そうではあるのですが、わずか1曲とはいえ、曲数が多いのです。思うにリピート並びにリサイクル盤で安心して認められるのは、このようなライヴのコンプリート化ではないかと。しかも別ソースとあって、音質も向上している。

 84年のこの時期といえば、必殺の《タイム・アフター・タイム》のラフな演奏が物語っているように、完成形に向かう過程にあり、それゆえに生まれるスリルがたまらない魅力となっている。大雑把な言い方をすれば、それだけジャズの要素が濃く、ポップ性は薄い。この時期のマイルスが意外にも純ジャズ・ファンに支持されている要因は、そこにある。いわば硬派から軟派への移行期。ただし急いでつけ加えておけば、マイルスにおける「軟派」とは、決してマイナス要因でも悪い意味でもない。「硬」だったものが「軟」になったということにすぎず、クオリティは保たれている。マイルスのトランペットも鋭く厳しく、アル・フォスターもがんばっている。じつにいい感じです。

【収録曲一覧】
1 Speak-That's What Happened
2 Star People
3 What It Is
4 It Gets Better
5 Something's On Your Mind
6 Time After Time
7 Hopscotch
8 Jean Pierre
9 Code M.D.
10 Something's On Your Mind
11 Decoy
(2 cd)

Miles Davis (tp, synth) Bob Berg (ss, ts) John Scofield (elg) Robert Irving (synth) Darryl Jones (elb) Al Foster (ds) Steve Thornton (per)

1984/7/15 (Holland)

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