作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏は、丸山和也参院議員の「奴隷」発言について政治家として問題発言だという。

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 自民党の丸山和也参院議員の発言、「今アメリカは黒人が大統領になってるんですよ。黒人の血を引くね。これは奴隷ですよ」が議論を呼んだ。丸山議員はすぐに発言を撤回したけれど、ネット上では、「問題箇所」だけ切り取ったマスコミの言葉狩りだ、彼の発言を全て聞けば彼の意図がわかる、と議員を擁護する意見も目立つ。

 というわけで、私も彼の発言全部を読みました。

 議員の発言は、日本がアメリカの51番目の州になる可能性はゼロではないですよ! そのくらいアメリカってダイナミックに変革を遂げられる国なんですよ!という流れで、例えの一つとして語られた。

 確かに議員の発言からは、“奴隷の子孫”でも大統領になるダイナミックなアメリカ!という調子でアメリカへの敬意を持っていることは、なんとなく伝わる。それがオバマ氏への敬意でないにしても、アメリカが大好きなのは、わかる。

 でも、これが問題発言であることは、彼の意図が何であれ、変わらないでしょ。

 議員を擁護する人のなかには、ただ「事実」を言っただけ、と言う人もいるけれど、事実にこだわるならオバマ氏の父がケニア出身である「事実」はどう考えればいいんでしょう。私たちがこだわるべきは、目の前で起きた事実を注意深く考えることだと思う。「黒人」=「奴隷の血を引く」という偏見を、自分の話を盛り上げる気の利いた例え話として紹介した事実。その無邪気さと、無神経な明るさと安直さ。奴隷制度が、どれだけの命を奪い、過酷な人生を強いてきたか、痛みを伴う想像力がないことに、政治家としてどうなのよっ、という事実。

 
 こういうことを書くと、言葉狩りだ、と言う人もいるけれど、政治家の言葉に表れる無教養や差別意識は、批判するべきだと私は思う。言いにくいことズバリ言ってくれた! 本音を言ってくれる!というような評価を政治家に向けることは、私たちが自らの首を絞め続けているようなものだから。

 私は今、アメリカのトランプ氏人気から、怖くて目が離せない。彼の半径1メートルに常にモデルみたいな女性たちがいることも気持ち悪いし、強い口調でイスラム教徒への偏見を剥き出しにする調子に熱狂する人々が怖い。日本にはあそこまで「ダイナミック」な人はいないのかもしれないが、プチ・トランプみたいな政治家はジワジワと増えているのではないだろうか。

 アメリカの大統領選挙を追いかけていて興味深いのが、候補者の好きな本をアンケートしていたり、本人が好きな本を積極的に語ることだ。ちなみにトランプ氏は一番のお気に入りの本は聖書で、2番目は自分の書いた本と答えてる。つまりは多分、本を読んだことがない。あと、お父さんのお友達が書いた『パワー・オブ・ポジティブ・シンキング』という本も薦めてた。

 日本の政治家にも同じこと、聞いてみたい。あなたの書棚には、どんな本が並んでいるのか。今の政権の人の本棚、かなり怖そうな予感しますけれど。

週刊朝日 2016年3月11日号