落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今回は漫画やドラマである定番の出会いが、現実ではなぜ起きないのか考察。
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「トーストをくわえながら走る登校中の女子」は、本当にこの世の中にいるのだろうか。
「あー、もう遅刻遅刻っ!!」
と慌ててトーストを頬張り、「もうっ! 朝ごはんくらいちゃんと食べなさいよっ!!」
とお母さんに呆れられ、
「忘れ物ないかー?」
と新聞を手にしたお父さんから声をかけられ、
「ははは、姉ちゃんまた寝坊かよー!」
と弟から笑われる、おっちょこちょいな「トースト娘(以下、トー娘)」に会ってみたい。
もはや「古典」だ。フィクションの世界ではあんなに目にするのに、私がなかなか会えないのはなぜなのか? いるんだろう? 隠れてないで出てこい。
思い至る「私が『トー娘』に会えない理由」。
【1】単にタイミングが悪い──走ってる女子はよく見かけるので、遭遇した時点で既にトーストを完食してるのかもしれない。
【2】「トー娘」は意外と恥ずかしがり屋──やはり乙女だからくわえながら登校する日は、人目につきづらい裏道を走ってるのかもしれない。
【3】我が家の近所では朝食はごはん派が多い──若いうちはなんだかんだで、パンより腹もちのいいごはんなのかもしれない。
空想の翼を広げれば、「トー娘」は絶対にいる……かもしれない。