ジャズは個性の音楽というが、同じ楽器を弾いて、どうしてこれほど音色が異なるのだろう?サキソフォンならリードの違い、ギターならピックの材質など、奏者のチョイスで音色が変わるのは理解できる。だが、ピアノが弾く者によって音が違うのは、どう考えても不思議である。
あんな、鍵盤を押すだけの仕掛けで、強く押すか、弱く押すか、基本的にこの加減だけで音が変わるなんて、ちょっと信じがたい。
ここに有名な演奏を収めた、ソニー・ロリンズのレコードがある。ブルーノートの『ソニー・ロリンズ・Vol.2』だ。三曲め、セロニアス・モンク作の「ミステリオーソ」で、モンク自身がピアノを弾くが、なんと途中でホレス・シルバーと交替するのである。
3分50秒あたりでJ.J.ジョンソンのトロンボーンソロになる。ここですかさずシルバーが滑り込んでくる。なんだこれは?!全然音が違うじゃないか!「ガッガー、ガッガ」このブロックコードで、来るぞとわかっていても毎回鳥肌が出る。
当然、同じピアノ、同じセッティング、違うのはピアニストだけ。「タッチが違うんだよ」と親切な人は教えてくれるだろう。んなこたぁわかっとるわい!タッチが違ったら音色が変わることを説明できないことが問題なのだ。
かねてから、「オーディオの音は空気中の水分によって変化する」という説を唱えてるわたしとしては、奏者が発散する汗などの水分が音楽と共鳴してその人のサウンドを造っていると考える。つまりは、奏者自身が共鳴体として作用しているのだ。
アコースティック楽器は、しばらく弾いて温めないと良い音で鳴らないものだが、ただ温めるだけでいいのなら、極端な話、電子レンジでチンして弾けばいいのである。
そうじゃなくって、フゥーっと熱い息を吹き込んで、たっぷり湿らせた空気を充満させるから良い音で鳴るんでしょう、そうでしょう。
ガスファンヒーターの温風で温めたって、良い音しないことくらいわかるでしょう。
昨今の音楽から熱気が感じられないのは、文字通り、音楽に共鳴する“熱い空気”を録音マイクがキャッチしてないせいだと思う。録音エンジニアは、マイクをいっぱい立てて、なんでもかんでもライン入力にせず、周辺の空気込みで収録するべしと提言したい。
オーディオマニアでも、その人が来ると、自分のオーディオの音がその人のサウンドになるということがしょっちゅうある。他人のせいにしてはいけないが、聴く人の共鳴の度合いによって、いつもの音が素晴らしく良くなったり、あるいは全然だったりするのである。
【収録曲一覧】
1. Why Don't I
2. Wail March
3. Misterioso
4. Reflections
5. You Stepped Out Of A Dream
6. Poor Butterfly