2020年の東京オリンピックまであと4年。日本らしさに加え、環境面への配慮が評価されたのが、隈研吾さん設計の新国立競技場だ。その建築思想に迫る!
東京オリンピックが開催された1964年、丹下健三設計の国立代々木競技場体育館に打ちのめされ、建築家になりたいと決意した10歳の少年がいた。国際的な建築家として活躍する隈研吾さんだ。そして今、新国立競技場を手がけることになった。
「前回のオリンピックでは、西洋から来たコンクリートや鉄の技術で世界一になったことをアピールしました。でも今回は、日本には古くから木の文化があり、人や地球環境にやさしいものだということを世界に発信すべきだと考えています」
隈さんは約20年前から建築に木を取り入れており、“和の大家”と評されるが、本人はその呼び名に違和感を覚えている。
「有名な寺や神社のような、様式化された和風建築を追求しているわけではありません。里山の民家のように、その場所と建築と人間がある種の循環システムとなっているのが日本の伝統建築の素晴らしさ。僕はこの民家のような存在が、これからの時代の重要なモデルになっていくのでは、と思っています」
新国立競技場は、外苑の森と調和させるため、可能な限り高さを抑えた。国産杉を格子状に組んだひさしにより、木に包まれている雰囲気を演出する。
「そこにいる人に木が感じられるスタジアムにしたい」
建設には多くの木材が必要となる。隈さんは、できれば被災地の木材を積極的に使い、震災復興の一助になればと思っている。
「オリンピックと復興はパラレルな存在。オリンピックだけお祭り騒ぎで復興が遅れるのは違う。お互いにプラスになる形で前に進むのが理想的です」
また、スタジアムを広場のようなものと考える隈さん。
「歌舞伎座などの劇場を設計し、建築物にも広場のような空間を作ってきましたが、スタジアムもみんなが集まって心が一つになれる場所。新国立競技場でもそのことを大事にしたい」
※週刊朝日 2016年2月19日号