「最終的に、女性たちは穏便にすませたいため、『1本だけ我慢すればいいなら』と出演に応じます。でも、1本で終わることはほとんどない。6~10本の契約で縛られていることが多いのです」(「ポルノ被害と性暴力を考える会(PAPS)」相談員)
ドメスティックバイオレンス(DV)など精神医学を研究する、筑波大学の森田展彰准教授(社会精神保健学)は、スカウトマンと女性の心理的メカニズムをこう説明する。
「男性が威圧的な言動や行動を繰り返す強い外的圧力によって、女性の自己決定力が弱まることがあります。例えば、裁判のプロダクションと女性のやりとりからは、女性の尊厳や安全性が脅かされる言動が繰り返されています。自分の価値観が崩れ、気持ちが混乱し、相手に支配されやすくなります。このような状況を意図的に作り出すことで、女性が性被害を受けていると言えるでしょう」
しかも、一度AVに出演してしまうと、その映像は未来永劫、人目に触れる可能性がある。
スカウトマンの常套句は、「年間10万本の新作が市場に出ていくなか、君が出演する作品なんて星屑の一つに過ぎないんだから。誰にもバレないよ」
ところが、商品はインターネットでキャッチフレーズとともに販売され、すぐ周囲に知られる。ある20代女性は友人・知人の言動に耐えかねて、商品の回収や販売を差し止めようとした。
だが、映像の著作権は制作会社側に帰属しているため、違約金400万円を支払うことになった。商品の肖像権については、AV関係者でも「期限を設定するなどの規制も必要」と話す。
伊藤和子弁護士は「『嫌だけど出演して、あとで何とかなるかもしれない』はすごく甘い。AVに出演することが嫌なのであれば、とにかく撮影に応じないでほしい」と強く助言する。
法的には、AV女優の募集やプロダクションからのAV制作現場への出演者派遣行為は、判例で職業安定法や労働者派遣法の「公衆道徳上、有害な業務」とされ、処罰の対象となっている。だが、実際の運用は不十分だ。
さらに、タレント事務所やプロダクションに対する監督官庁はなく、届け出の必要もない。伊藤弁護士は「労働契約であれば厚生労働省、あるいは、風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)であれば警察庁が監督すべきだ」と提言する。
社会の意識を変えていく必要もある。制作側と出演者の間で少額でも金銭の授受が発生すれば不当には当たらないと考える風潮がある。だが、PAPS(※)の相談員は強い口調で、こう話す。
「トップのAV女優がブログで『セックス大好き』『信念を持って、この仕事に取り組んでいる』と書いていても、私たちには『死にたい、死にたい、死にたい』と何度もメールを送ってきます。それが本当の心の内ではないでしょうか」
弱い立場にある若い世代が泣き寝入りしなくてもすむような仕組みの構築が急務である。
※ PAPS:People Against Pornography and Sexual Violence(https://paps-jp.org/)
※週刊朝日 2016年1月29日号より抜粋