落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」で、上野や秋葉原で見かける「爆買い」の新しい楽しみ方を教えてくれている。
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私は、寄席出演の合間に上野のアメ横や秋葉原電気街をうろつくことが多い。2015年は例年に増して外国人観光客が多かった。中央通りには大型バスが何台も並び、いろんな言語が飛び交ってにぎやかだ。みんな目的は「爆買い」らしい。
ワイドショーとか夕方のニュースなどでは「おいおい、またやってるよ(半笑い)」的な、若干揶揄するような視点で伝えることが多いが、外国人の「爆買い」は間近で見てるとスカッとして気持ちいい。日本人の買い物より豪快で、やはり世界レベルは違うなぁと感心する。
高価な電化製品をドカンと買うところもいいが、消耗品を「あんた、そんなに必要なの!?」つーほど買いまくってるところを、ちょっと離れてウォッチングするのも良い時間のつぶし方だ。空想して遊ぶのが楽しい。
箱入りの「メガネ拭きシート」を20~30個も買い物カゴに入れてる、おそらく中国人のおじさん。おじさんもメガネを掛けてるが、自宅用ではないだろう。さっきトレーナーの袖でメガネを拭いていたし。職場の同僚に配るのだろうか? おじさんが会社の同僚のデスクに、
「ニッポン行ってきてな、ほれ、土産やっ!(なぜか関西弁)」
と言いながら、小箱を投げつけていくさまが目に浮かぶ。
「課長。ボク、メガネ使てまへん!」
「誰かにあげたらええがな」
周りを見れば、みんな持っている。誰にあげたらいいのやら。
「パソコンばっか見てると目ぇ疲れるやろ?」
「わー、課長ー。これ欲しかったんですぅー!」
という具合に女子の評価も上がるかもしれない。おじさんもいろいろ気を使う。
おじさんは山積みの生理用品の一つを手にとって、そばのおばさんと何か話し始めた。奥さんか。奥さんは怪訝そうな表情でまくし立てた。
「そんなもん、お土産に買うてく人おるわけないやろっ! 軽いセクハラやでっ!」
「……さよか?」
「当たり前や! 私の分だけでえーがな!」
奥さんは10個ばかり買い物カゴに放り込む。
「……使いきれるか?」
「ちょっと、あんた! それどーいう意味やっ!!(怒)」
おじさん、下を向いた。
奥さん、紙オムツの棚の前で考えている。
「あんた! いくつ持てる!?」
「せいぜい四つやろ」
「店員さーん、10ください!!」
「持てへん、持てへんっ!」
「何言うてんの! 可愛い孫のためやないの!! △△さん(婿の名前)も若うないんやさかい、国もええ言うとるし、もう一人作るかもわからんのやで!!」
「次は女の子がええなぁ。しかし◯◯は何であんなオヤジと一緒になったんやろ? ワシと三つしか違てへん……」
「またその話かいな!(怒)」
レジから出てくる長過ぎるレシートを楽しげに眺めている奥さんの脇で、おじさんが虚ろな目をして佇んでいる。レシートは蛇が這うように床まで伸びた。
「爆買い」の裏にはいろんな人間模様があるに違いない。
※週刊朝日 2016年1月1-8日号