さらに2002年小泉訪朝の際も、半年ほど前から「有本恵子さん生存」という噂が聞こえてきた。首脳会談当日、時事通信は「有本恵子さん生存、帰国へ」と速報までしている。
つまり、北朝鮮は、拉致問題で日本側が前のめりになるようなイイ話を撒(ま)き、交渉に臨んではそれ以外のものを出して経済援助なりを引き出そうというのが常套(じょうとう)手段なのだ。
膠着状態を受けて、このところ、「一部解除した制裁を元に戻せ」、あるいは「さらに強化すべき」との声が上がっている。
経済制裁について言えば、やるなら徹底してやる、つまり「チキンレース」のような覚悟でやるならば、それは効果があるだろう。経済制裁の究極のところは、貨物船の出入りを止める海上封鎖、さらに自衛隊が怪しい船舶に乗り込む臨検だ。これを北朝鮮に対して行えば、交戦状態になるのは必至だ。しかし、現在の憲法上の制約だけでなく、国民の一般的な意識からしても、これはできない。
かといって、制裁を強化したところで、過去8年間で北朝鮮が困り果て拉致被害者を出してこなかったわけで、効果の検証もしっかりやらずに強化したところで、また同じ年月が流れるのではと危惧する。なぜなら、北朝鮮指導者は、食料が窮乏し、90年代半ば以降280万人ともいわれる餓死者が出ても“平気”だったのだから。また、国の血液といえる重油は、中国からのものは、核・ミサイル開発のために減ったようだが、途絶えてはいない。現在はイラン、ロシアからも入っているようだ。
次に特殊部隊。つまり武力で救出せよとの声が最近聞こえてくるので、敢えて言うのだが、拉致被害者がどこでどのように生存しているかの確たる情報もなく投入することなどできない。安倍首相も7月の安保関連法案をめぐる国会審議で「残念ながら考えられない」と述べている。
これは、拉致発生を容易にしてきたことにも通じるが、アメリカのCIA(中央情報局)やDIA(国防情報局)のような諜報機関が日本にない以上、武力に頼ることはできない。
わが国は若狭湾沿岸に14基の原発が集中するというリスクを背負う。万一、北朝鮮のミサイルまたは工作船からのロケット砲が、この一つを破壊し、放射性物質が琵琶湖に降り注いだならば、近畿の千数百万人は水を飲めなくなる。
拉致被害者を救出する方法だが、あるフランス人ジャーナリストが私に語ったものだ。