アントワープ1967
アントワープ1967
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「ジャズと楽曲」という永遠の課題に対する模範回答
Antwerp 1967 (One And One)

 まもなくブートレグ・シリーズが登場することによって、いよいよマイルスのブートレグも新局面に突入せざるをえなくなりつつあるが、新しい段階に入る前に、眼前の机上に山積している新作ブートを健気にもマジメに紹介しておきたい。

 とはいえ今回も昨今急増しているリマスター・ヴァージョンアップの類の新作で、すでにヴェテランのマイルス者にはお馴染みの音源。初出は『ヒズ・グレーテスト・コンサート・エヴァー』で、それはそれは驚かされたものです。当時も(そして少なくともブートレグ・シリーズが発売される直前の)現在もなお公式に発売されていない60年代黄金クインテットのライヴだけに、それはそれは衝撃ではありました。

 思えば一喜一憂したのもいまとなっては懐かしい思い出、いまではすっかり慣れ、「出しすぎだよ」「もっといい音で出せよ」とか、それはもう恩知らずの我々マイルス者ではありますと、まったく反省の色なし。

 さて67年のベルギーはアントワープ・ライヴ。最後のテーマも含めて全9曲、といちいち書くのも面倒になるほど、全曲がメドレー状態でたたみかけてくる。この疾走感はどうだろう。たとえば、テナー・サックスはウエイン・ショーターではなくジョージ・コールマンだが、あの『フォー・アンド・モア』の疾走感もすごい。しかし、あえて贅沢を言わせていただくなら、曲単位でとどまっている。グループとしての、全体としての疾走感があまり感じられない。その点、この67年のライヴは、曲が曲の次元を超え、全体で1曲というスケールまで到達している。つまり世界観が確立されている。

 では、64年と67年のライヴにおいて決定的な差が生まれた理由は何か。前述したようにショーターとコールマンのちがいによるものだけだろうか。それとも3年の時差だろうか。そういったこともあるのかもしれないが、思うに「楽曲」の質ではないだろうか。すなわちレパートリーの変化と楽曲の質こそが、67年クインテットの演奏が地続き状態で疾走感を生み出すことになった最大の要因と考える。

 64年の時点では、《フットプリンツ》も《ライオット》も《マスクァレロ》も《ジンジャーブレド・ボーイ》も存在していなかった。早い話、《ソー・ホワット》や《ウォーキン》に頼らざるをえなかった。これでは黄金クインテットも実力を発揮できなかったろう。このクインテットは「ジャズと楽曲」という永遠の課題に決定的な回答を与えてくれるように思う。それではまた来週。

【収録曲一覧】
1. Agitation
2. Footprints
3. Round About Midnight
4. No Blues
5. On Green Dolphin Street
6. Riot
7. Masqualero
8. Gingerbread Boy-The Theme

Miles Davis (tp) Wayne Shorter (ts) Herbie Hancock (p) Ron Carter (b) Tony Williams (ds)

1967/10/28 (Belgium)