TPPの大筋合意を受け、大手メディアは歓迎ムードを演出している。だが、実態は違う。
TPPは医療分野など国民の健康にも多大な影響を及ぼすことになりそうだ。かねて、アメリカの要求で混合診療が解禁され、国民皆保険が形骸化することが懸念されてきた。
同時に、農産物の輸入拡大で“食の安全”も脅かされようとしている。
北海道がんセンター名誉院長の西尾正道氏は、医師の立場からTPPに強く反対してきた。
「TPP交渉におけるアメリカの最大の狙いは、日本の医療と保険業界です。アメリカの製薬会社や医療業界が政治家などに使ったロビー活動費は、5300億円に上ります。軍需産業の1500億円、製油・ガス関連業界の100億円と比較しても突出しています。製薬会社は自分たちの利益増のため薬価の上限撤廃と日本の医療分野への参入を求めているのです。TPPが締結されれば、医療費や薬価が高騰して国民の自己負担が増大することが予想されますが、ほとんどがブラックボックス状態です」
日本では、薬価は厚労省が決めている公定価格だが、アメリカでは製薬会社が自由に価格を設定している。
ところが、TPP締結によって、ISDS条項なるものも導入され、公定価格が維持できなくなる可能性がある。
例えばアメリカの企業が投資相手国の規制により損失を被った場合、世界銀行の傘下機関に提訴して賠償を求めることができる。
ISDS条項による決定は、相手国の国内法より優先される。アメリカはこの制度を濫用しており、訴えられたメキシコなどの国々は、ほぼ負けている。日本の国民皆保険や薬価決定のプロセスが、自由な市場競争を阻害していると提訴されれば、莫大な賠償金を支払わされるか、国の制度が覆される危険性がある。