普段は温厚な白井さんだが、見たいものを俳優から引っ張り出すために、自分も俳優もとことんまで追い込むことがある。その、“追いつめる作業”は、今回、ヴェートーベンの生涯を追う中、思いを馳せる部分もあったのだとか。
「ヴェートーベンの生涯を調べれば調べるほど、なぜ人はあそこまで、自分の生と葛藤し、聴こえない耳と格闘しながら、生きていかなければならないのかという問いに行き着いてしまう。自分の生を確認しながら、これでもか、これでもかと生きる。そうやって格闘した結果生まれたのが、『歓喜の歌』だったのかもしれないと思うんです。あんな天才中の天才でも、悶絶し、格闘していたという事実が、少しでも観る人の勇気につながればいいんですけど」
劇場空間を創造することも、命を削る作業かもしれないが、でもそれよりも白井さんは、日常生活のほうが嫌で嫌でしょうがないらしい。
「銀行の振り込みとか、日常での作業がいちいち面倒なんです。お皿って何で汚れるんだろう、芝居なら食器なんか洗わなくてすむのにって思ったり。普段の生活のほうが体力を消耗しているかもしれない(笑)」
※週刊朝日 2015年10月16日号