
劇場空間でしか体験できない共有感を――。新しい作品を演出するときは、そんな枷(かせ)を、いつも自分にはめている白井晃さん。過去に、堀北真希さんや有村架純さんの舞台デビュー作を手がけ、舞台の芸術性を保ちつつ商業的にも成功させた。その手腕を買われ、今回与えられたお題は、「ヴェートーベンの第九を舞台に」。
「“そんな途方もない題材、どうやって舞台にするんですか”って、はじめはぼやいてばっかりでした(苦笑)。でも、日常とはかけ離れた素材を、劇場空間の中で芝居として成立させることが、根っから好きなんでしょうね。演劇を目指した大学1年生のときから、フィクションの中にこそリアルがあると信じながら、ずっと生きてきたので」
演出に携わりつつ、白井さん自身は、学術、文学、音楽、美術、それらすべてを途中で諦めてしまったというコンプレックスがあるという。
「戯曲を書いてみた時期もあったけれど、やっぱり書けないと思ったし、役者もやりたいけれど超一流にはなれない。子供の頃はピアニストになりたかったけど、中学のときに諦めてしまった。絵も写真も好きだけれど、そっちの道には進めなかった。最後に出会ったのが、演劇だったんです。大学で劇団に入ったとき、先輩から、『なんで演劇やりたいと思ったの?』って訊かれて、『一人では何もできないけれど、演劇であれば、何か一つの要素になれるんじゃないかと思ったからです』って答えたことを今も覚えています。僕の場合、創造するってことは、たくさんある情報から好きなものをチョイスして束ねさせていただいている、そんな感じかもしれないですね」