
男性のがん患者数で、胃がんを抜き1位になると予想されている前立腺がん。比較的治りやすいがんとして知られるが、根治が望めない進行がんでは死亡者数が年間1万人を超える。進行した患者を延命できる新薬三つが、昨年保険適用となった。
神奈川県在住の会社員、西田芳郎さん(仮名・58歳)は、2007年の夏、排尿時に尿が出にくいなどの違和感が強くなってきたため、近所の泌尿器科を訪れた。すると、PSA(前立腺特異抗原)という前立腺の病気の指標となる検査数値が異常に高く、横浜市立大学市民総合医療センターの泌尿器・腎移植科を紹介され受診した。すぐに精密検査を受けたところ、PSAは83.14 ng/mLだった。この数値は正常では4以下なので、かなり高かった。前立腺に直接針を刺して組織を採取し調べる針生検や画像検査もおこなった。その結果、がんの悪性度を示すグリソンスコアが8と悪性度が高く、病期はT3bという、精のうまで広がる進行した前立腺がんだった。
西田さんの担当医である上村博司医師はこう話す。
「西田さんには、手術や放射線治療などの局所療法ではがんを除去できない状況であることをお伝えして、ホルモン療法を受けてもらうことにしました。LH‐RHアゴニストという精巣からの男性ホルモンを抑える薬と、ビカルタミドという男性ホルモンが前立腺に作用するのを防ぐ薬です」
前立腺がんの薬物治療は、ホルモン療法の効果が高いので、ホルモン療法を先におこなう。しかし、ホルモン療法はいったん効果が出ても長く治療を続けるとがんが再燃する。抗がん剤はホルモン剤が効かなくなってからおこなわれる。西田さんもまずホルモン剤で治療をおこなったところ、約半年でPSAの数値は正常範囲の1以下に下がった。
ところが、09年に恥骨に転移が見つかり、ホルモン療法とともに放射線治療を受けた。その後、ホルモン剤を変更して、症状を抑え込んでいたが、10年の終わりごろから、再びPSAの数値が上がり、12年3月には16.65と正常範囲を大きく上回り、同時期に胸椎転移が出現した。