このときの診察で、西田さんは上村医師から新しい薬の治験があることを聞き、参加することにした。
西田さんには、当時治験がおこなわれていたアビラテロンというホルモン剤が投与された。アビラテロンは、男性ホルモンであるアンドロゲンの合成に関わる酵素をシャットアウトすることで、前立腺がんの増殖を阻止する働きをする薬だ。
治療を始めると、西田さんのPSAの数値は下がり、骨転移の症状も抑えられた。それから約3年経過するが、現在も、働きながら日常生活を支障なく送っている。
「西田さんは、かなり治療がうまくいっているケースです。ホルモン療法はアビラテロンに加え、エンザルタミドという薬も使えるようになり、治療がやりやすくなりました」(上村医師)
二つのホルモン剤は、14年に保険適用となり、従来のホルモン剤が効かなくなった患者でもホルモン療法が続けられるようになった。いずれも飲み薬で、副作用も強くないため、高齢の患者の福音となっている。
また、ホルモン療法の効果がなくなったときに処方する抗がん剤も、ドセタキセルの進化形である、カバジタキセルという薬が保険適用になり、最終手段として使えるようになった。
「去勢抵抗性と言われる、ホルモン療法が効かなくなった患者さんに対しては、従来は、ドセタキセルという抗がん剤しかなかったのですが、選択肢が増え、生存期間を延ばすこともできるようになり、患者さんが治療に希望を持てるようになりました」(同)
現在、アビラテロン、エンザルタミド、ドセタキセルの三つの薬の優先順位については科学的根拠が確立していないが、患者の状態や副作用を考慮しながら処方することで、去勢抵抗性の前立腺がんも治療をあきらめずに延命を模索できるようになってきた。
※週刊朝日 2015年10月9日号より抜粋

