ウォール・トゥ・ウォール・マイルス・デイヴィス・トリビュート・コンサート
この記事の写真をすべて見る

前代未聞のマイルス・トリビュート第1弾
Wall To Wall Miles Davis Tribute Concert (Cool Jazz)

 マイルスにまつわるトリビュート企画はそれこそゴマンとあるが、その大半は、ただたんにマイルスの名前に乗っかっただけの安直なもの。音楽的にも「どこがマイルスやねん」と、温厚な人間をして思わず毒づかせたくなるようなトホホが圧倒的に多い。そうでないものを探したほうが早いくらいだが、容易に探せないのもまたマイルス・トリビュート企画の特徴。それだけ絶対数が多いということです。

 アルバムのみならずイヴェントも大小あり、しかも世界各地で頻繁に行なわれている。そう、マイルス・トリビュート企画の最大の特徴は、この「頻繁に」という点にあるのです。通常は誕生月とか命日前後とほぼ決まっていますが、マイルスだけは年がら年じゅうトリビュートされまくっており、その実態を把握するのはほとんど不可能に近い。

 今回ご紹介するトリビュートは、2001年3月、ニューヨークのシンフォニー・ホールで行なわれたイヴェントの一部を2枚組にまとめたもの。このイヴェントは約10時間にわたって行なわれ、したがって今後も続編が発売されるのでしょうが、まずは第1弾を軽くご紹介しておきたいと思う。

 この第1弾だけでも、とにかくメンバーがものすごい。ピート・コージー、DJロジック、ビル・フリゼール、ゲイリー・トーマス、メルヴィン・ギブス、ジョー・ロヴァーノ、エディ・ヘンダーソン、ジミー・コブ、ヴァーノン・リード、アダム・ホルツマン、ウォレス・ルーニー、バスター・ウイリアムス、レニー・ホワイト、ボビー・ワトソン、ヴィクター・ルイスその他。

 さて第1弾の最大の聴きものですが、それはもうメルヴィン・ギブス・リベレーション・セオロジー・ウイズ・ピート・コージー&ジョー・ロヴァーノによる《ダーク・メイガス》と題された演奏でしょう。マイルスのスピリットを継承しつつ自分たちの音楽を表現するという理想が達成されています。一方、かなりアホラシーところでは、ウォレス・ルーニーの《ラウンド・ミッドナイト》とか《ポーシア》でしょうか。この人、マイルスになり切っている、そのことが恥ずかしいことであることにまったく気づいていない、そこが悲しくもすばらしいです。共演はアダム・ホルツマン、バスター・ウイリアムス、レニー・ホワイトですが、よくぞ笑わずに最後まで演奏できたものです。感心します。プロです。しかしマイルス的ではありません。というところで、また来週。

【収録曲一覧】
1 Bitches Brew (Bobby Previte's Voodoo Down Orchestra)
2 Gingerbread Boy (Bobby Watson & Horizon)
3 Live-Evil/Honky Tonk (Sex Mob-Bill Frisell-DJ Logic)
4 Loose Change (Ingrid Jensen-Gary Thomas)
5 Walkin' (")
6 Prince Of Darkness (David Sanchez)
7 Dark Magus (Melvin Gibbs' Liberation Theology-Pete Cosey-Joe Lovano)
8 Miles '58/'66/Footprints (Eddie Henderson-Jimmy Cobb)
9 Right Off (Vernon Reid)
10 Maze (Adam Holzman & Brave New World)
11 Tomaas (")
12 Round Midnight (Wallace Roney)
13 Portia (")
(2 cd)

2001/3/23 (New York)

[AERA最新号はこちら]