林:コントみたい。新垣さん、譜面を宅配便で送ったんですよね。しかも「送り主の名前は偽名にしろ」とか言われて。

新垣:そうですね。

林:図々しい……。

新垣:いつもは喫茶店で手渡しだったんですけど、そのときはカメラがついて回っていて外出できないから送ってほしいと。

林:譜面はパソコンでお書きになるんですか。

新垣:手書きです。パソコンを習いそびれちゃったので、手で書くほうが速いんです。

林:私みたい。私も手書きのほうが速いんです。誰かが言ってましたけど、この騒動が大きくなったのは、クラシックという特殊な世界では、コンセプトを伝えたら何人かで手分けして曲をつくることが許されるのかと、素人が思ったからかもしれないって。

新垣:ポップスや映画音楽とか、量産する場合は分業体制もあるのかもしれませんが、作曲家、芸術家として作品を世に出すのであれば話は別だと思うんです。文芸作品もそうだと思いますけど。

林:ゲーム音楽(「鬼武者」の「ライジング・サン」)を録音するときには、200人のオーケストラで演奏したんですよね。新垣さんは指揮もされて、「贅沢だった」って書かれてましたね。

新垣:指揮台の上は、すべての音が一番いい状態で聞こえる特等席なんです。

林:そのとき、みんな佐村河内さんが作曲した曲だと思ってたんですか。

新垣:いや、オーケストラのメンバーの人たちは、違和感を持っていたと思うんです。そのとき曲についてちゃんと理解していたのは、自分だけでしたから。

週刊朝日 2015年8月7日号より抜粋