各界の著名人が先の戦争を振り返る「戦後70年とわたし」。今回は、数々の名作を残し、日本の漫画界を牽引してきた松本零士さん(77)。実は、メーテル、エメラルダスなど彼の描く女性には、終戦を迎えた日のおばあさんの姿があった。
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ゴゴゴッという轟音(ごうおん)とともに、米軍のグラマン戦闘機が、生い茂る雑木林から、超低空飛行で飛び出してきたんです。お互いに表情がわかるような距離。僕と目が合ったパイロットは、ニヤリと笑ったのをいまも覚えています。
僕は福岡県久留米市で生まれました。陸軍パイロットだったおやじが南方に出撃すると家族は愛媛県大洲(おおず)市の新谷へ疎開しました。戦争末期にはB29爆撃機がバンバン飛んできました。幸い本格的な空襲には遭わず、悪ガキ仲間と田んぼの泥に埋まった実弾を、花火みたいに爆発させようと石や金づちでたたくなど、いたずら三昧の日々です。
「宇宙戦艦ヤマト」「宇宙海賊キャプテンハーロック」「銀河鉄道999」──。戦闘機の空中戦が頭上で、毎日繰り広げられるようななかで少年期を過ごした僕が、戦いを作品のなかで描くのはごく自然な流れでした。同時にストーリーのなかで、悪役にも人間味あふれた感情を描き、互いの国籍に敬意を払い同じ地球人という設定を大切にした。その根底には、戦争下で暮らし、周囲の大人から戦争の意味を学んだ部分が大きかった。