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 今からちょうど四半世紀前の1990年。バブル経済がはじける直前の東京で、園子温監督は4畳半一間のアパートに暮らしていた。自主映画が賞を獲ったことはあるものの、映画監督として世間に認められる10年以上前のことだ。園監督は、ひとりコツコツと映画の脚本を書いていた。

「漫画家になりたくて、10代で上京してからは、いろんな漫画の編集部に持ち込みをしました。でも、それがことごとくうまくいかなかった。バンドも組んだし、劇団も作って、自主映画も作って、一通りのことはやったけど、賞をもらえたのが映画だったので『続けるべきなのは映画なのかな』と。そんな流れで」

 25年後、ようやく当時書いた脚本が映画として公開されることになった。ロックミュージシャンを目指す鈴木良一が、ペットのカメ“ピカドン”とともに大暴れする「ラブ&ピース」は“特撮感動ラブストーリー”だ。

「去年、たまたま20年以上前に書いた脚本2本を映画に撮ることができたせいか、実はちょっと抜け殻みたいになってしまって。そこからは『転職してえなぁ』なんて夢想する日々です。初めてアートの個展をやってるんですが、それがうまくいったら芸術家に転身したい(笑)」

 その映像のタッチのみならず、原作ありきの映画からオリジナルまで、手がける作品数が多いことも園監督の特徴だが、去年は特に“質より量”をモットーに、映画を撮って撮って撮りまくった。

「日本の映画って、いい映画を撮ろうと、どうしても完成度を競い合ってしまう傾向がありますよね。そのせいか、“画”を観ただけで誰が撮ったかわかる映画ってほとんどない。でも、漫画って、一目見れば誰が描いたかわかるじゃないですか。僕は、映画でも自分だけの“画”を突き詰めたい。僕がこだわっているのは、それだけです。映画の出来不出来なんて関係なくて、個性が、オリジナリティーが出ているかどうかを一番大事にしたい。量産することでそのオリジナリティーが壊れるとも思ってなくて、工場のように大量生産したほうが、自分の限界を超えるものが生まれるんじゃないかっていう期待があって……。どこかで、量が質を凌駕すると信じてるんです。だって、素晴らしい詩を残した詩人がいても、3編しかなかったら、文庫にもならないでしょ? 一生懸命いいものを作ろうと腰を据えるより、夢中でいっぱい書いてたら、自分の領域を超えた傑作が書けるかもしれない。自分でコントロールしながらやっていると、自分を超えられない。200年残る作品なんて、どうせ一握りなんだから、好き勝手やって、暴れればいいのにな、と思います」

 バイオレンスな映像に定評がある園監督だが、人は肉体や武器を使ってしか暴れられないわけではない。「ラブ&ピース」では、愛や平和もまた、存分に暴れていた。

週刊朝日 2015年7月10日号

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