認知症患者が推計500万人の時代に突入した日本。ある調査では、その6割が詐欺や余計な買い物などの経済被害にあった経験があるという。患者の急速な増加で法制度も対応できず、むしろ悪徳業者に食い物にされるケースが目立つ。
最高裁判所の調査によると、成年後見制度の利用者数が増え続けるなか、解任される後見人の数もそれに比例して増えている。13年に解任された後見人は565件にのぼり、うち、財産の横領など不正行為を理由に家庭裁判所が職権で解任した「職権解任」は380件だ。これは、解任件数の約67%を占める。
被害金額も大きい。同じく最高裁の調査によると、後見人の不正は10年6月から14年12月までに2551件判明していて、被害総額は約196億円。それでも、この数字は氷山の一角だとされる。後見人についての苦情窓口を設けている一般社団法人「後見の杜」の宮内康二代表は言う。
「後見人の不正行為は家庭裁判所でも確認することが難しい。後見人が定期的に家裁に提出する定型の書面では、現場の状況は把握できないからです。相談する場所もなく、泣き寝入りする人も多いはずです」
問題が発覚すると、解任される前に自ら辞任するケースもあり、統計には出てこない。
日本成年後見法学会の理事長で中央大学教授の新井誠氏は言う。
「この制度は、日常生活を送る能力が弱くなった高齢者をサポートするものです。そのためには、後見を受ける高齢者の親戚や介護関係者との協力は不可欠。弁護士や司法書士という国家資格があり、行政手続きや契約書の作成に慣れていれば、適任ということではないのです」