過激派組織「イスラム国」(IS)による邦人人質事件で、政府の検証委員会は5月21日、「人質の救出の可能性を損ねるような誤りがあったとは言えない」と結論づける報告書を発表。波紋が広がっている。
「報告書を読んで怒りを抑えようがありません」と、コメントしたのは、事件で犠牲になったフリージャーナリストの後藤健二さんの母、石堂順子さん(78)。
「(報告書では)『夫人への往訪・電話連絡を含め、様々な懸念事項に係るご家族との相談、必要な情報の提供等を行った』としていますが、『ご家族』の対象をなぜ『夫人』だけに限定するのでしょうか。母親である私のもとには日本政府から電話の一本すらかかってきませんでした。いまだに私には何の連絡もありません」(石堂さん)
報告書には「関係国や部族長などあらゆるルート・チャンネルで最大限の努力をした」とあるが、アラブ情勢に詳しい一水会の木村三浩代表はこう疑問を呈する。
「2人がまだ生存していたころ、私は自民党の幹部に、アラブの公共放送などで、『人質を殺すな』とか『誘拐は犯罪だけど、話し合う用意はある』という声明を日本政府はバンバン出すべきだと言ったんですよ。自民党幹部は進言したが、政府は何もしなかった」
その後、木村氏は石堂さんの了解を得て、遺骨返還に尽力してきたという。
「ヨルダンのアンマンで、ISとの交渉の人脈を持ち、後藤さんとの人質交換の対象ともいわれた死刑囚らの弁護もしたムーサ・アブドラ弁護士に遺骨返還の交渉を依頼し、連絡を取ってきました。ムーサ弁護士が、4月に遺族に会うために来日しようとしたら、外務省から入国ビザの発給を拒否されました。来日を妨害したとしか思えません」
上智大学国際教養学部の中野晃一教授はあきれたふうにこう話す。
「検証という名に値しないですね。報告書は官房副長官が委員長を務めて、インサイダーでやっただけ。国民の目から見て、国民の安全を守ることにどうして失敗したのかという、真摯な視点がないですよ。自分から危険なところへ行ったのだから、国は保護する必要がないと言わんばかりの対応で国家の役割を踏み外しています」
結局、政府の責任逃れの報告書のようだ。
※週刊朝日 2015年6月5日号