「現在、国際的な取引・決済に使われる通貨『基軸通貨』はドルで、取引する際、為替の影響を受ける可能性があります。中国は今、4兆ドル近い外貨準備を保有しています。その規模は世界一。人民元は国際金融市場で他の通貨との交換に制約があるため、制限を緩和する狙いもあるのでしょう」
アメリカと同盟国のイギリスは、ロンドンの金融市場では人民元で直接決済できるようにして、ビジネスを拡大させたいといった狙いがある。ドイツは中国への輸出を拡大することが目的。メルケル首相が05年就任以来、訪日は3回なのに対して、中国を8回も訪問している。
経済が減速しているとはいえ、中国のGDPは、あと10年もすれば、アメリカに追いつき追い越す。それを見越して世界の各国が中国についていっているというのは、中国情勢に詳しい東短リサーチの加藤出チーフエコノミスト。
「現在、日本のGDPは世界第3位ですが、中国との差は開くばかりです。IMFの予想を見ても19年にはその差は3倍になり、経済大国などと言っていられなくなります」
インフラ・バブルの波に乗り、アベノミクス成長戦略を達成させるためにも、中国との関係を良好にする必要があると苦言を呈す。
アメリカ国内からも、G7の4カ国がAIIBの創立メンバーに入ったことに危機感を抱く声が上がってきている。
「このままではアメリカは孤立する」と警鐘を鳴らすのは、アメリカのシンクタンク「外交問題評議会」(CFR)上級研究員のスチュワート・M・パトリック氏だ。国際関係の重力の中心、つまり「パワーシフト」が西から東に起きつつあるという。
「経済の影響力がアメリカから中国へシフトしていることを象徴しています。オバマ政権は過去にも国連人権理事会のような不備のあった多国籍間組織に対して、参加して内部から改善を推し進めるアプローチを取って成功しています。今回は、それをしないで同盟国にAIIBへの不参加を要請しています。この戦略は短絡的でアメリカは孤立してしまいます」
アメリカ以外の主要先進国がAIIBに参加を表明したことは、中国の経済影響力の高まりを反映しているだけではない。オバマ政権のリーダーシップの欠如への不満が根底にあるとパトリック氏は斬る。
「10年にG20(20カ国・地域財務相・中央銀行総裁会議)で、途上国の融資額を倍にする、また中国などの主要な新興国にも議決権を許諾するといったIMFの改革が合意されました。ところが、5年たった今でも、これらの改革はアメリカ議会で引き延ばされたまま。IMF改革が頓挫している状況で、アメリカがヨーロッパの同盟国にAIIBに参加するなという説得はできない」
イギリスが実利を追求する行為は、アメリカを西軍と見たてると、関ケ原の戦いで小早川秀秋が徳川方に寝返り、後に西軍が総崩れした姿を彷彿させる。
国際社会でアメリカの一極体制が崩れ始めた今、日本は、アメリカ依存体質からの脱却が迫られている
※週刊朝日 2015年4月24日号より抜粋