“伝説のディーラー”と呼ばれモルガン銀行東京支店長などを務めた藤巻健史氏は、日本銀行がこのまま量的緩和を続ければハイパーインフレが起きるという。

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 花粉症で苦しい。そして悔しい。

 二十数年前、「森林を守ろう」というキャンペーンに賛同し、林野庁が管理する「緑のオーナー」制度に参加した。国有林の杉やヒノキなどに1口50万円を出資し、満期に伐採の収益金をもらう仕組みだ。

 何口か満期になっている。額面割れもいいところで、おおよそ元本の3割くらいしか戻ってこない。「国を相手に損害賠償を起こす動きが出ている」という新聞記事を数年前から散見するが、それはおかしい。木材が市況商品であることは、小学生でも知っているだろう。儲かったら利益を林野庁に返すつもりだったとでもいうのだろうか?「儲かったら自分のモノ、損したら補填せよ」は筋が通らない。

 私が悔しいのは損したことではない。損は自己責任だ。悔しいのは、自分の金で杉を植えて、今、花粉症で悩んでいることだ。自分で自分の首を絞めている。

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 1985年から89年は狂乱経済と言われたバブル期だが、そのときの消費者物価指数(CPI、全国・生鮮食品を除く総合、2010年基準)は、86年が前年比0.8%、87年が0.3%、88年が0.4%、89年が2.4%の増加だった。大半は黒田東彦日銀総裁が現在目標としている2%以下だった。しかし経済は狂乱した。

 3月中旬に公表された1月1日時点での土地の公示価格は、最高額地点が東京・銀座の山野(やまの)楽器で1平米3380万円と昨年と比べ14.2%の上昇だった。

 
 日経平均株価もアベノミクスのおかげで力強い上昇となり、3月31日の年度末は1万9206円と、バブル初期の86年末(1万8701円)に匹敵するレベルだ。株価といい、山手線内の土地が2桁の上昇率を記録し始めたことといい、バブル初期と似ている。

 当時日銀総裁であった澄田智氏が2000年12月発売の『真説 バブル』(日経BP社)の中で「消費者物価が安定しているのに不動産価格や株価が急騰し経済が狂乱してしまったことを見抜けなかった」と反省している。

 CPIが、黒田日銀総裁が目標とする2%に達しないのに、不動産と株の値段が今後とも続騰した場合、日銀は窮地に陥る。究極の選択をしなければならないからだ。量的緩和を中止(=国債購入を中止)すれば、国が資金繰り倒産の危機に直面してしまう。

 15年度の国の国債発行予定額は新規国債37兆円、借換債116兆円の計153兆円だが、日銀が約70%の年間110兆円を買うことになっている。7割を買い占めている買い手がいなくなれば、どんな市場でも大暴落だ。

 価格暴落必至の国債を買い向かう機関は平時でも考えられず、ましてや不動産価格や株価が上昇しているときに、国債に資金を割り振る機関もないだろうから、国債価格は暴落(=長期金利は暴騰)する。

 国は何十%もの金利で新発国債を発行するわけにはいかないから、新たな借金はできない。96兆円の歳出を賄う資金の4割が賄えなくなるのだ。

 国の資金繰り倒産はまずいといって、量的緩和を継続すれば(=紙幣をばらまき続ければ)バブルはさらに大きくなり、ハイパーインフレ到来必至だ。

週刊朝日 2015年4月17日号