コペンハーゲンの“ジャズハウス・モンマルトル”での記念ライヴ
Full House / Alex Riel (Storyville)
アレックス・リールと言えば、2007年10月の出来事を思い出す。ニルス・ラン・ドーキー・トリオのドラマーとして来日。それを知ったぼくは、事前にMySpaceを通じてリールにメッセージを送っていた。今ではすっかりFacebookに覇権を譲っているSNSも、当時は国際的な人的交流に有効だったのである。
ちなみにニルスとは先頃11月のブルーノート東京公演の時にも旧交を温めた間柄。そんなわけで2007年の終演後にバック・ステージを訪れてニルスと話していると、リールがさっと手を出して、CDを渡してくれた。完成したばかりのリーダー作だ。そのさりげない動きに、1960年代から欧米の数多くのミュージシャンをサポートし続け、北欧メインストリーム・ジャズ・シーンを代表する実力者のダンディズムなのだと感じ入ったのであった。
リールは生地コペンハーゲンのメッカとして数々の名演を生んだ“カフェ・モンマルトル”に、63年からレギュラー出演。やがてケニー・ドリュー+ニールス・ペデルセンと共にハウス・トリオを務め、欧州最高のリズム・セクションとして活躍する。同店は移転や経営者の交代があり、95年に惜しくも閉店。するとそれまでバイ・プレイヤーのイメージが強かったリールが、リーダー作の制作に力を注ぎ始め、培った人脈を生かした人選によってクオリティの高い内容を実現。次第に再評価のムードを高めていく。そして2010年に伝説の名店が復活。新生“ジャズハウス・モンマルトル”の開店に尽力したのは、ニルス・ラン・ドーキーだった。リールは審議会の委員としても、同店の運営に関わっている。
40年生まれのリールは再開から間もない2010年9月に、70歳の誕生日を記念して1週間連続出演。様々な編成や参加ミュージシャンと共に、デンマークが誇る名手のキャリアを祝った。本作はその最終日、特別編成のクァルテットの演奏を収録したライヴだ。信頼関係の厚い同国人のイェスパー・ルンゴー、スイスのジョルジュ・ロベール、イタリアのダド・モロニと、リールのパートナーにふさわしい実力者揃いの欧州連合。祝福気分をさらに盛り上げるべく、お馴染みのスタンダードとジャズ・ナンバーでプログラムを編成。米国西海岸派の定番曲#1で、ロベールがフィル・ウッズ譲りのエネルギッシュなブロウにより豪快に祝砲を上げれば、モロニも負けじとばかり秘技を繰り出して参戦する。ラストのクリフォード・ブラウン曲#7まで、メインストリーム・ジャズの醍醐味を存分に味わえる充実の1枚だ。
【収録曲一覧】
1. Just Friends
2. Body And Soul
3. Impressions
4. Chiming In
5. Like Someone In Love
6. Old Folks
7. Sandu
ジョルジュ・ロベール:George Robert(as)
ダド・モロニ:Dado Moroni(p)
イェスパー・ルンゴー:Jesper Lundgaard(b)
アレックス・リール:Alex Riel(ds) (allmusic.com へリンクします)
2010年9月12日コペンハーゲン録音