オープン・セサミ/フレディ・ハバード
オープン・セサミ/フレディ・ハバード
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 新しい店舗が作られてるのを見て、有線放送の営業マンがやってきた。「ぜひ有線を引いてください。こんなにチャンネルがあって便利です。ジャズももちろんありますよ!」

 無論断った。月々何千円かの聴取料を払うなら、レコードを買ったほうがずっといい。レコードはJimmyJazzの「財産」になるし、何より奏者の名前も答えられないジャズを流すなんて無責任だと思ったからだ。

 そこいらのカフェバーとは違い、たかがBGMといえど、本物のジャズを流したかった。有線でもブルーノートのフレディ・ハバードはかかるが、それらはわたしが意図してかけるわけではない。できることなら、そのときの気分で適切なレコードを選びたいと思っていたのだ。

 そうはいっても、接客中にレコードをいちいちかけ替えるのは不可能に近いから、買ったレコードは120分のカセットテープに録音して、オートリヴァースのデッキで流すことにした。

 いよいよJimmyJazzオープン!1988年11月のことである。親父の店が歩いて三分ほどしか離れてないので、そっちから随分客を引っ張っらせてもらったが、いざ蓋を開けてみると、地元の住民にたいした違和感もなく受け入れられた。珍しいもの見たさ(?)に客がやって来て、念の為にプールしておいた運転資金に手を着けることもなく、その年を越すことができた。その後も順調に顧客は増え、JimmyJazzはなんとか軌道に乗っていく。

 いつもスーツでビシッとキメて、パーマをかけに来るお客さんがいた。「お出かけですか?」と何度か訊いたが、いつも「いえ…。」という返事。あとでその方の奥さんに訊いたら、JimmyJazzに行くときはわざわざスーツに着替えてめかし込んで行くのだという。

 JimmyJazzのある大阪市西淀川区は工場地帯だから、会社帰りに作業着で来店されるお客さんも居る。わたしは作業着だろうとジャージだろうと全然気にしないのだが、「汚い作業着ですみません」と恐縮される。「サンダル履きですみません」と謝る人も居た。

 ヒソヒソ声で話をする人も多かった。普通に話せばよさそうなものだが、なんだかあっちでヒソヒソ、こっちでヒソヒソ。JimmyJazzはジャズ喫茶ではないので、「私語厳禁」の貼り紙はないのだが、店の威圧感のようなものがそんな現象を起こしたのだろう。

 今となっては考えられないが、その昔、ディスコで「Gパン、スニーカーお断り」というのがあった。ジャズ喫茶の「私語厳禁」もそうだが、そういう洗礼を受けた世代がJimmyJazzもディスコやジャズ喫茶、あるいはカフェバーといった「お洒落な産業」の仲間と認めてくれた。その証が「スーツ姿」と「ヒソヒソ声」だったのである。ダサい仕事の代名詞だと思っていた「散髪屋」が、ついに「お洒落な産業」の仲間入りを果したのだ!

「散髪しながらジャズが聴けるなんて画期的ですね!」そう誉めてくださるお客さんもあった。正直、BGM程度の音量だから「聴ける」というほどでもない。オーディオ装置も安物だし、ソースはカセットテープだ。「聴ける」という言葉に、少なからずプレッシャーを感じていた。今なら装置も多少は立派(?)になったので、是非とも聴いていただきたいのだが、残念ながらそのお客さんは東京に転勤してしまった。

「散髪しながらジャズが聴ける」この一言がなかったら、わたしはここまでオーディオに首を突っ込んでいなかったかもしれない。

 JimmyJazzはわたしの思惑通り、あれよあれよという間に親父の店の売上を抜いた。今は亡き祖母がとても喜んでくれたのを憶えている。

「俺の斬新なアイデアと技術で成功したのだ!」と思いたかったが、不思議とそんな気持ちがまったく起こらなかった。それどころか、協力してくれた親父やお袋、必死で頑張ってくれたスタッフ、何よりも喜んで来てくださるお客さんに感謝の思いでいっぱいだった。わたしがやったことといえば、「ジャズと理容室をくっつけよう」と、頭の中で考えたことだけ。実際に奔走してくれたのはまわりの人達だ。JimmyJazzは、決して自分ひとりの力では為し得なかった。

―――それに、あの頃は誰が何をやっても成功した。そんな夢のような時代が本当にあったのだ。(つづく)

【収録曲一覧】
1. Open Sesame
2. But Beautiful
3. Gypsy Blue
4. All or Nothing at All
5. One Mint Julep
6. Hub's Nub
7. Open Sesame [Alternate Take]
8. Gypsy Blue [Alternate Take]

Freddie Hubbard (tp),Tina Brooks (ts),McCoy Tyner (p),George Tucker (b),Al Harewood (ds)
[Bluenote] 19.Jun.1960 Engineer:Van Gelder

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