「看護師らの供述と矛盾する内容の供述を強弁」

「弁解の余地のない、はなはだ無責任な言動」

 医師らに対する怒りに満ちたこの言葉は、東京女子医科大学病院(東京都新宿区)に提出された医療事故調査報告書に記されていた。

 異例ともいえるこの文書は、昨年2月に同病院のずさんな医療で2歳の男児が亡くなったことを受け、第三者による事故調査委員会がまとめたものだ。

 男児は同病院で手術を受け、ICU(集中治療室)での人工呼吸中に麻酔薬「プロポフォール」を大量投与されて死亡。そもそもこの薬は、人工呼吸中の鎮静で小児に使用することが禁止されている劇薬だった。

 事故調はなぜ、医師に激しい批判を浴びせたのか。遺族の代理人である貞友義典弁護士は言う。

「大量投与は、どの医師の指示で、どの医師がいつ投与したのか。それが今でもわかっていません。ICUの医師たちが医療行為の内容についても『記憶がない』などと、証言を拒否しているためです」

 大量投与があったのは、昨年2月19日午後8時から翌20日の午前10時。この間、成人の限界使用量の3倍以上の薬が投与されていた。病院の説明では、この時間帯を担当していたのは医師歴わずか5年の研修医だった。ところが、薬の投与量を記入する「注射指示書」には、この時間帯だけ、どの医師の署名もない。男児の両親は、「研修医の判断で、投与量を大幅に増やすことができるとは思えない」と不審感を抱いている。

 ICU担当医の証言も二転三転している。

 責任者のA医師は当初、プロポフォールを使用した理由について「適応の拡大を検討していた」と遺族に説明し、別の医師らから批判されていた。昨年4月の説明会でも、プロポフォールに使用制限があることは知っていて、24時間で他の薬に切り替えるよう指示していたとの話をしていた。

「ところが、A医師は昨年11月に事故調に提出した文書では、遺族への説明をすべて撤回。それが今年1月には、『私の意に反する不適切な内容』と言って11月の文書を再び撤回しました。A医師に一度は意に反する撤回をさせたのは誰か。誰かを守ろうとしていた可能性もある」(貞友弁護士)

 本誌は病院に説明を求めたが「回答は控えさせていただきます」と答えた。

 真相が闇に葬り去られぬよう、遺族は司直の手に解明を委ねる予定だという。

(本誌取材班=上田耕司、小泉耕平、西岡千史、福田雄一、牧野めぐみ/今西憲之)

週刊朝日 2015年2月27日号