ジャズ喫茶名盤にはちょっと変わった特徴がある。それは「かけやすい」ということ。当たり前のようだが、これがけっこう難しい。どんな名盤でも「あ、またかかった」じゃまずいのだ。だから、キース・ジャレットの『ケルン・コンサート』(ECM)やら、マル・ウォルドロンの『レフト・アローン』(Bethlehem)なんぞは、内容的に問題が無くともあんまり按配が良くないのである。
要するに「メロディで聴かせる」タイプはダメなのだ。どんなオンチでも「ケルン」の出だしの、♪タララ・ラーンは口ずさめる。じゃあ、どういうシロモノならいいのか。味、コク、雰囲気で聴かせる演奏が好ましい。だからキャノンボール・アダレイがらみで言うならば、マイルスの共演に寄りかかった面があるとは言え、文句なしの名盤、『サムシン・エルス』(Blue Note)やら、大ヒット・チューンが看板の『マーシー・マーシー・マーシー』(Capitol)などは、曲想が勝ちすぎていて「ジャズ喫茶の名盤」にはなれないのだ。
で、登場するのがヴァイヴの大御所、ミルト・ジャクソンと共演した『シングス・アー・ゲティング・ベター』(Riverside)なのである。キャノンボール・ファンでも、あまりこの辺りまで手を伸ばしている方は少ないように思える。確かにランキング的には、前述盤以外にも『キャノンボール・アダレイ・クインテット・イン・シカゴ』(Mercury)やら、『キャノンボール・アダレイ・クインテット・イン・サンフランシスコ』(Riverside)の方が上であることを認めるにやぶさかでない。だが、いつかけても塩梅が良く、ジャズ喫茶空間に和むのは、実は本作のようなさり気無い演奏なのである。
聴き所は、ファンキー大将キャノンボールが、ミスター・ソウル、ミルト・ジャクソンのヴァイヴ・サウンドと合体することによって、ほっておくと心持浮き気味のファンキー味付けに、落ち着いたコク、深みが加わっているところ。まさに「隠し味的」調味料の勝利である。
それは、冒頭の渋いナンバー《ブルース・オリエンタル》を聴けばすぐに納得されることだろう。ミルトの深く沈んで落ち着いたヴァイヴのサウンドに、心持ファナティックな表情のキャノンボールのアルトが突き刺さる。すると、見せ掛けだけでない真性ファンクというか、実にディープなソウル・フィーリングが心地よく醸し出されるのだ。
【収録曲一覧】
1. Blues Oriental
2. Things Are Getting Better
3. Serves Me Right (Take 5)
4. Serves Me Right (Take 4)
5. Groovin' High
6. The Sidewalks Of New York (Take 5)
7. The Sidewalks Of New York (Take 4)
8. Sounds For Sid
9. Just One Of Those Things
Julian Cannonball Adderley, as
Milt Jackson, vb
Wynton Kelly, p
Percy heath, b
Art Blakey, ds
Recorded in Oct 28,1958, New York City