内閣官房副長官補として安全保障を担当した柳澤協二氏は「日本語でも演説は強すぎます」と言う。
「どこか『闘い』のニュアンスがある。演説には『ISIL(イスラム国)がもたらす脅威を少しでも食い止めるため』や『ISILと闘う周辺各国に』支援を約束する、などの文言がありました」
脅迫された後に「人道的な支援」と強調するのであれば、削ってもよかったのではないか、というのだ。
元外交官で外交評論家の小池政行氏も「首相には油断があったのではないでしょうか」と指摘する。
元在シリア特命全権大使で『イスラム国の正体』(朝日新書)の著作がある国枝昌樹氏がこう話す。
「湯川さんは昨年7月、後藤さんは10月下旬から行方がわからなくなっています。イスラム国は2人を安易に処刑せず、彼らにとって最も効果的な“脅迫カード”となるタイミングを待っていたわけです」
後藤さんの妻あてにイスラム国から最初の脅迫メールが届いたのは、昨年11月。
「メールのやり取りは首相の中東歴訪前まで断続的に続き、イスラム国は約20億円の身代金を要求していた。外務省も内容を把握し、官邸に逐一、報告していたが、ズルズルと判断を引き延ばしたまま、首相が企業を引き連れ、中東に出かけ、“飛んで火にいる夏の虫”となり、身代金も10倍以上も吹っかけられてしまった」(外務省関係者)
(本誌取材班=古田真梨子、原山擁平、福田雄一、横山 健、小倉宏弥)
※週刊朝日 2015年2月6日号より抜粋