近年、“日本っていいよね”ブームが起きている。テレビ各局は日本大好きな外国人が登場する番組を競うように放送。書店をのぞけば、『世界が見た日本人もっと自信を持っていい理由』『そして日本経済が世界の希望になる』といった本がズラリと並ぶ。精神科医の香山リカさんは日本人の持つ欧米への強いコンプレックスを払拭したいのだろう、とこの状況を分析している。

 長く日本で暮らす外国人はどう感じているのか。お笑いコンビ「パックンマックン」のパトリック・ハーランさんが言う。

「日本人が自分たちをヨイショしているという否定的な見方がありますが、普段は気づかない自国の良さをきちんと理解し、そこを伸ばせばいいと思う。確かに少し大げさな部分もありますが、海外ではアニメやゲーム、禅、茶道、武士道など、文化的な面で以前より注目されているのも事実。武術は、日本へ学びに来る外国人も多く、競技人口が減っていくなかで生き残り策としても大切。今こそ日本を世界にアピールできる大チャンスなんです」

 上智大学の吉野耕作教授(社会学)は、番組をどう捉えるかは視聴者しだいだと強調する。

「視聴者には、自分も海外に出ていきたいという気持ちと、日本の良さを確認したいという二つのベクトルがある。それは個人の経験や感じ方によります」

 香山さんは、内向きのベクトルへ大きく進んでしまう理由は国内の不安にあるという。

「本当は国ではなく自分自身をほめてもらいたいが、今は個人を承認してもらえる機会が少ない。雇用不安や社会とのつながりを保てないで、自分が何者かという属性がどんどん削がれていく。そして最後に残るゆるがない属性が日本人。努力しなくてももてる肩書みたいなものです。個人として満たされていないから、最後の拠り所が“日本人である私”なのでしょう」

 肩書は日本人──。こんな寒々しい響きだけが残らなければいいのだが。

週刊朝日 2015年1月30日号より抜粋