炎症の原因とされる物質に作用する生物学的抗リウマチ薬の発売から11年が経ち、多くの患者で痛みがほぼ消失する寛解(かんかい)が可能になった。
多くの患者で寛解が現実的となったが、それをいかに維持するかが今後の課題だ。多くは一生涯、薬による治療が必要となるため、治療や医療費の最適化に向け、薬の量を減らして(投与間隔を延ばす等)、寛解を維持する工夫もおこなわれている。
東京都に住む会社員、春日健二さん(仮名・43歳)は、06年3月に、突然、肩の痛みを覚え、近くの整形外科を受診したところ、肩の靱帯の断裂と診断された。しかし、同年9月ごろから手足や全身の関節が腫れて痛み、微熱や倦怠感が続き、仕事に支障が生じるようになった。そこで、同年11月に東京女子医科大学膠原病リウマチ痛風センターを受診した。春日さんを担当した山中寿医師は、臨床症状や検査値から関節リウマチと診断した。
春日さんは、リウマチ治療の定石どおり、第一選択薬であるメトトレキサート(MTX)の治療を開始。著しい関節炎があったため、07年5月から、早く効果が表れることを期待できる生物学的抗リウマチ薬「レミケード」を軸に治療した。同剤は病院で点滴するタイプの薬。3カ月後には関節の痛みがほぼ消えるなどしたが、本人の強い希望により、いったん投与を中断。08年9月から投与を再開したが、3年半後の12年3月に強い関節炎が再発し、効果が弱くなったと判断した山中医師は、薬を変えることを提案した。
12年5月からは、しくみの異なる生物学的抗リウマチ薬の「アクテムラ」による治療がおこなわれた。1回目の治療で関節炎はほぼ消失し、2カ月後には寛解状態になった。
この薬は4週おきに点滴注射するが、春日さんの仕事の出張と治療時期が重なり、投与間隔が6週に延びたことがあった。効果が持続していたことや、本人が投与間隔を延ばすことを希望したため、山中医師はその治療の妥当性を理解し、間隔を延ばす治療に変えた。
山中医師はこう話す。
「リウマチの患者さんは薬を使い始めると、なかなかやめることは難しい。ただ、生物学的抗リウマチ薬は治療費が高額ですので、患者さんの経済的負担の軽減という視点での治療も必要です。当院ではこの薬を用いて寛解になった人で、薬を減量して治療を継続している事例は数多くあります」
春日さんは、その後、投与間隔を6週から7週に延長し、13年10月から8週間隔で治療を継続中だ。効果が切れることなく、現在も寛解を維持しており、今後はさらに延長して使い続けることも検討中という。
「春日さんのように寛解を維持できている人もいますが、維持できなくなり、投与間隔を短くした患者さんもいます。身体的、経済的負担を減らす治療法として期待できますが、研究は緒についたばかりです。今後、十分なデータを集める必要があります」(山中医師)
※週刊朝日 2015年1月23日号より抜粋