来年10月に予定されていた消費税率の10%引き上げを安倍政権は2017年4月に延期した。
今後、再増税の先送りがデメリットとしてさらに表面化する可能性は否めない。
すでに目に見えてきている影響が円相場の急激な下落だ。20日のドル円相場は一時1ドル=118円98銭まで下落。約7年3カ月ぶりの円安ドル高水準を記録した。三井住友銀行チーフストラテジストの宇野大介氏は説明する。
「10月31日に日銀が追加の金融緩和を発表したため、円の供給量がより増えるとみられたためでしょう。もう一つは、再増税を先送りするほど景気が悪いという認識が広まったためです」
つまり、ジャブジャブになったため円の価値が減っているうえ、景気悪化で円そのものの実力が落ち始めているということだ。
急激な円安は、さらなる物価高となって国民を苦しめることになる。中小零細企業の経営は苦しい。原材料費が上がっても、価格に転嫁するのは難しく、円安は利益の減少につながる。
東京・神田で繊維業を営む50代の社長が嘆く。
「リーマンショック以降、消費の低迷で売上高がまったく伸びていない。そこにきて、円安でコストが上がって、利益が出せなくなっている。昔は銀座で飲んだんだけど、今じゃほとんど家で飲んでます」
食品の価格もまだまだ上がりそうだ。
BNPパリバ証券経済調査本部長の河野龍太郎氏は言う。
「円安は当初、輸出を増やすと期待されましたが、そうはならず、輸入品の価格を押し上げる弊害ばかりが大きくなっています」
11月に入って、バターが店頭から消えたと騒ぎになった。円安による飼料の高騰で酪農業をやめる人が増えたことが一因とみられている。今後もこうした円安による影響はそこかしこの業種で出てきそうだという。
原材料費が上がれば価格も上がる→収入が増える→賃金上昇という流れがアベノミクスの描く未来像だったのだろうが、そんなに現実は甘くはなかった。
「解散などしている場合なのか。円安対策を早くしてもらわないといけないのに。自治体レベルでできることなんて知れている」
と、中小企業の多い自治体の職員は呆れ顔だ。
政府もさすがに経済財政諮問会議で、中小企業への対策などとして2兆~3兆円を準備する意向を示した。とはいえ、円安は止まりそうにない。どこまで進むのか。宇野氏は言う。
「今年の1月あたりは1ドル=105円前後でした。この勢いを考えると、来年は120円を超えても不思議ではありません」
再増税が見送られたといっても、円安による物価上昇で暮らしは苦しくなるばかりなのだ。
※週刊朝日 2014年12月5日号より抜粋