収穫が始まったばかりの「シャトー・デュ・クロ」(撮影/写真部・松永卓也)
収穫が始まったばかりの「シャトー・デュ・クロ」(撮影/写真部・松永卓也)
市として初めて世界遺産に登録されたボルドー(撮影/写真部・松永卓也)
市として初めて世界遺産に登録されたボルドー(撮影/写真部・松永卓也)

 パリの南西約500キロ。ジロンド県のボルドーは世界有数のワイン生産地として知られ、マルゴーやメドックなど63ものアペラシオン(フランスの法律で定められた基準を満たす原産地)を有する。ここで生み出されるワインは、「ワインの女王」とも呼ばれる芳酵で華やかな風味が特徴だ。このワイン好きの「聖地」で今、ワインツーリズムが盛り上がっている。

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 収穫が始まったばかりの9月末。ルーピアック地区の甘口白ワイン「貴腐ワイン」をメインに生産する「シャトー・デュ・クロ」を訪れた。

 ぶどう畑から、楽しそうな声が聞こえる。収穫を迎えたこの時期、スペインやポルトガルなどから多くの労働者がボルドーに集まり、街はにぎやかになる。

 シャトー・デュ・クロは、3年前から本格的に観光客向けのワインツーリズムを始めた。ぶどう畑や醸造施設の見学に加え、ワインと軽食を楽しめるプログラムもある。シャトー内のダイニングで、シェフが各ワインに合わせた料理を提供する傍ら、4代目オーナーのカトリーヌ・ダルアン・ボワイエさん(49)がワインの説明をする。

「貴腐ワインは甘口で、食事に合わないと思われがち。でも、実はどんな料理とでも合う。寿司などの日本食にも合います」

 アメリカのワイン産地などに比べ、閉鎖的と言われてきたボルドーだが、2007年、市の世界遺産登録などを機に、ワインツーリズムに力を注いでいる。

「16年には、世界のワイン文化を伝える博物館『ワインと文明センター』もできます。ガリアローマ時代からワインの歴史が続いてきたボルドーの使命ですね」

 ワインと文明センター長シルヴィー・カーズさん(59)は話す。

 中世の雰囲気を残す街もまた、訪れる者を惹き付ける。ガロンヌ川の河口に位置する中心地は、湾曲した川沿いに発展したことから「月の港」と呼ばれる。観光に訪れていたイギリス人のフィリップ・ブラウンさん(53)は、「ボルドーで美酒に酔い、美しい景観にも酔いました」と笑う。

 時間を重ねるごとに味わいを深めるワインのように、ボルドーの街もまた人々を魅了し続ける。

【取材協力 ボルドーワイン委員会(C.I.V.B)】

週刊朝日  2014年11月28日号