ここ数十年でHIV・エイズの治療は劇的に進歩を遂げた。一方で、いまだに患者を取り巻く社会状況は厳しいのが現状だ。HIV・エイズと共に生きる人たちやその周りの人たちを支援する「NPO法人ぷれいす東京」の生島嗣代表に話を聞いた。

*  *  *
 私たちの活動は主に三つに大別され、HIV感染者(陽性者)やパートナー、家族への「直接支援」、HIV・エイズについて情報提供する「予防啓発」、全国調査や冊子を作る「情報発信」です。

 HIV感染者の多くが自分たちの気持ちを吐き出す場を求めています。そのため、私たちは「マイノリティーの中のマイノリティー」が出会える場の提供をしています。例えば、「40代以上の男性限定」や「感染を知って6カ月以内の人」などの細かいグループを設定して同じ立場の人たちが本音で相談し合える場を提供しています。

 私たちがおこなった調査によると、10年間で服薬の回数は大きく変化しました。10年前は服薬回数が1日1回の人が2.3%でしたが、昨年は1回の人が58.1%まで増加しました。これは治療方法が進歩したことを表していると思います。その一方で、10年間で変化がなかったのが感染者における非就労者の割合です。10年前の割合が24.2%でしたが、昨年も23.3%とほぼ横ばいでした。これは、治療は進歩していても、まだまだ社会的な風当たりは厳しいということを意味しています。特にHIV感染者の医療関係や介護関係、食品関係の人たちからは、仕事を続けていいのかという相談が多く寄せられます。

 HIV感染者と共に働くことで周囲への感染は起こりません。しかし、差別を恐れて実際に病気を伝えていない人が多いのが実態です。世代によりますが、周囲の人がこの病気を深刻にとらえすぎてしまうことも問題です。私たちの調べでは仕事場で病名を隠すことで精神的に負担を感じる人が約6割もいました。

 自分の職場や周りの人から、陽性であることを伝えられた場合に必要なことは、特別な配慮でなく、プライバシーを守ることだけです。HIV感染者は長期に働ける時代になりました。そっと見守る態度が、感染者たちの働きやすさにつながるはずです。

週刊朝日  2014年10月31日号