出版取次業から小売業に転じた、セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長兼CEO。作家・林真理子さんとの対談でダイエーが衰退した理由について持論を語った。
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林:ところでお名前を出すのは恐縮ですが、ダイエーの中内功会長は、最後は非常に残念なことになってしまいましたよね。何がいけなかったと思われますか?
鈴木:中内さんは偉大な経営者で、ものが不足していた時代に日本にスーパーマーケットを導入して、いかにものを充足させるか、いかに安く売るかということに専念した。ただ時代がどんどん変わってきたのに、“安さ”から抜けられなかったんでしょうね。
林:それから西武の堤清二さんも。私、堤さんのいちばんいいときに西友の宣伝部に机をもらっていたので、西武がああなったときにはショックでした。
鈴木:僕も堤さんとはお付き合いがありました。林さんもご存じのとおり、彼は高度成長の波に乗って新しいことに挑戦し続けた人でしょう。経済がいったん下向きになったときに、その変化に対応できなかったのかもしれない。
林:鈴木会長はご自分でどこが違っていたと思われますか。
鈴木:僕はたまたま小売業に来てしまったから、やや冷めた目で、のめり込まずにものを見てきた。それがよかったのかもしれない。たとえば同じものだったら、誰だって安いほうがうれしいですよね。
林:はい。
鈴木:だけど世の中には流行というのがある。食べものでも何でも、時代の変化に合った新しいものを提供していかなくちゃいけない。だから「安さじゃなくて質を重視しなさい」と言ってきた。
林:おにぎりも、高くしたら売れたんだそうですね。
鈴木:そう。競争が激しくなってきてお客さんがおにぎりに飽きてきたとき、開発担当者が「120円のおにぎりを100円にしましょう」と提案してきた。それで僕はみんなに言った。「100円はいい。だけど、それで売れなくなったら90円にするのか? 90円で売れなくなったら80円にするのか?」って。お昼に食堂に入ったってせいぜい400~500円でしょう。仮におにぎり一つ200円で売ったって、二つで400円。そしたらこんなに安いものはないでしょう。だから、「値段を下げるんじゃなくて、いいものをつくりなさい。1個130円、150円のおにぎりを出しなさい。いちばんいいおにぎりは200円にしなさい」と言ったんです。みんなそれじゃ売れないと言ったけど、売れました。
※ 週刊朝日 2014年10月10日号より抜粋