原発輸出、再稼働に前のめりな姿勢を見せる一方、「電力市場を完全に自由化します。日本では不可能と言われてきたこと」とダボス会議で宣言した安倍晋三首相(60)。自由化されれば、「脱原発」が実現するかも――。そう期待する国民もいるだろう。だが、その裏で原発救済計画が着々と進行していた。安倍政権の本音は何なのか?
こうした中、“ウルトラC”として浮上してきた案がある。
原子力小委に英国エネルギー・気候変動省のキーナガン・クラーク副部長が招かれ、英国が導入するCfD(差額決済契約)という耳慣れない制度が説明されたのだ。
この制度は、廃炉費用や使用済み燃料の処分費用も含めた、原発の運営にかかるコストを回収できる価格を事前に「基準価格」として定め、実際の電気料金が基準価格を下回った場合、差額を電力会社が受け取れるというもの。いわば、再生可能エネルギーについて行われている固定価格買い取り制度(FIT)の原子力版だ。英国でも計画段階で、まだ実施されていない。
基準価格は、政府と電力会社との間の交渉で決められる。例えば「原発のコスト」を回収できる基準価格が1キロワット時あたり10円、実際の電気料金が7円なら、電力会社は不足分の3円を受け取れることになる。環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長がこう解説する。
「英国のCfDは新規原発1基についてのみですが、経産省の議論の進め方を見ると、既存の原発まで対象にしようとしているような印象がある。その場合、基準価格との差額分は、電力会社が送電網を使用する際に支払う託送料金に上乗せされる可能性が高い。結果的には電気料金となって、広く国民全体から徴収する形となる。電力自由化後に火力や風力の新電力会社と契約した消費者も、等しく『原発のコスト』を負担させられることになります」
脱原発を促進したくて自然エネルギーの電力会社と契約しても、結局、原発コストを払わされることになるというのだ。原発のコスト計算に詳しい立命館大学の大島堅一教授はこう憤る。
「もしそんな制度が導入されたら、原発の弱点である初期投資や廃炉のコストを一挙に負担するリスクを除外して運転できるわけですから、原発を持つ既存の電力業者に一方的に有利になる。電力自由化が骨抜きにされてしまいます。普及が進めば技術革新でコストが下がって支援が不要になることが見込まれる再生可能エネルギーと違い、電力消費者が半永久的な負担を強いられることも問題です」
そもそも、政府がモデルにしようとしている英国の制度には批判の声も上がっている。自然エネルギー財団のトーマス・コーベリエル理事長がこう語る。
「英国のCfDで導入されようとしている基準価格は1キロワット時あたり約16円で、現在のデンマークでの風力発電による電力の価格の約3倍にもなる。競争市場ならコストの安い電源を使うべきで、古い技術が生き延びるために国が支援するのは、おカネの無駄です」
CfDを実施するにはEUの承認が必要だが、市場のルールに反する特定産業の保護とみなされる可能性があり、承認が得られるかは不透明だという。前出の飯田氏もこう批判する。