現在、CDBの近くでは来年度の開設を目指し、「理研融合連携イノベーション推進棟」の工事が進んでいる。地上8階建てで、再生医療関連の研究機関が多数、入居する予定。このプロジェクトの中心となって政府との予算交渉などを行ってきたのが笹井氏だったのである。
「CDBでは『笹井ビル』とか『笹井城』なんて言う人もいます。笹井氏は『推進棟を起爆剤に、神戸市の再生医療を世界の中心にしたい』と意気込んでいた。STAP騒動の後は、『私がいなくなったら、推進棟はどうなるんだ。完成するまでは、軽々しくCDBから離れるなんてできない』と、気に病んでました」(前出の理研関係者)
論文不正の調査経験がある遠山正彌・大阪府立病院機構理事長はこう語る。
「笹井氏の例でもわかるように、日本の科学界は大きな予算を集めるプロジェクトの責任者と、研究者という立場の線引きがなくなっている。何か一つ大きなプロジェクトを打ち上げれば、そこに予算もつき、人も集まる。そのため、理研も処分の決断ができず、あいまいにしたのではないか」
「ネイチャー」や世界最高峰の学術雑誌「セル」は相次いで笹井氏の死を悼む声明を発表した。科学界の損失は計り知れないと。
(本誌・上田耕司、今西憲之、牧野めぐみ、小泉耕平、横山健、福田雄一)
※週刊朝日 2014年8月22日号より抜粋