「誰が誰に投票しても同じや同じやと思って、ヴァッアアァーン……この日本……ヴアァァン……!! この日本……世の中を変えたいッ! その一心で、やっと議員になったんですぅ~ヴゥアアア!!」

 顔をぐしゃぐしゃにして泣きわめき、拳を振り上げる前代未聞の会見が開かれたのは7月1日。その発端は神戸新聞が6月30日付夕刊で報じたスクープで、昨年度、兵庫県の城崎(きのさき)温泉などに200回近い日帰り出張を繰り返し、約300万円を政務活動費から支出したという内容だ。これを受けての釈明のはずが、野々村竜太郎前県議(47)は突如感情を爆発させ、涙と大声で非論理的な持論を展開。その一部がテレビのニュース番組を通じて全国に発信された。

 間髪入れず、ネットの動画投稿サイト「ユーチューブ」に会見映像がアップされて瞬く間に広がり、2日間で再生回数は200万回を突破。英タイムズ紙(電子版)は「温泉スキャンダルでフルスロットルの謝罪」との見出しで掲載、米国やロシアのテレビなども皮肉を込めて話題にした。

 なぜ国内外のメディアがこぞって取り上げたのか。上智大学の碓井広義教授(メディア論)が分析する。

「理由のわからない号泣、意味不明の叫び、一見ふざけて見えるポーズ。この3点セットが特異なキャラクターとして認識され、誰もが『ホントに県議?』と疑いたくなった。不可解な言動が人々を釘付けにしたんです」

 
 芸能界の大御所たちも即座に反応し、まず明石家さんまがラジオ番組で「俺よりオモロイ」と絶賛。ビートたけしらも情報番組などで、手でコップを隠して水を飲む姿や耳に手をあて聞き返すしぐさをまねてはネタにした。

 ITジャーナリストの井上トシユキ氏は言う。

「映像のインパクトが強く、初めは『この人、おかしいよね』と軽い気持ちで共有していたら、本当に税金を不正に得ていたことがわかり、『日本の恥さらし』という厳しい怒りに変わっていった」

 実際、野々村氏のブログやSNS上では「この税金泥棒が!」「今すぐ辞職しろ!」と批判が高まり、炎上している。精神科医の香山リカ氏は、

「県議という社会的な地位がありながら、振る舞いが未成熟。そのギャップが大きかったから批判しやすかった。さらに税金の不正支出は弁明の余地がなく、叩(たた)く側の『正義』が保障された。だから皆、容赦なくバッシングし始めたんです」

 そして、野々村氏をおちょくるコンテンツがネット上にあふれるようになった。動画で約100万回再生されているのが、大ヒットドラマ「半沢直樹」のワンシーンに野々村氏の釈明映像が組み込まれ、主人公の半沢と悪役の常務に追い詰められているよう加工されたもの。静止画では、野々村氏の顔写真のコラージュ作品が膨大に出現。巨匠ムンクの名画「叫び」の顔の部分が野々村氏の泣き顔に変えられたり、耳に手をあてたポーズをジブリのアニメ映画「耳をすませば」と合成されたり。

 多彩すぎるバリエーションに思わず噴き出してしまう。まさに“ネット上のおもちゃ”状態。なぜこんな事態になっているのか。

 
 コラムニストの小田嶋隆氏は、「一県議の不正支出疑惑で、集団的自衛権の問題と比較したら本当に小さな話題。本来ならローカルニュースレベルですよ」と指摘した上で言う。

「ただ、あの号泣映像は非常に衝撃的で、私自身も大笑いしてしまった。多くの人が『どんな人なのか』と知りたくなる野次馬根性を駆り立てられて、エンターテインメントとして消費されていったのではないか」

 前出の碓井教授は「小悪党的」だからこそ、叩く要素があったとみる。

「政務活動費をごまかしたという実にセコイ着服で、命にかかわる深刻さがないから余計、笑って叩くムードになった。数えきれないコラージュ画像や動画は『こんな面白いものを作れる俺』『こんなものを発見した私』と、叩く側の発表の場になっている。自分のすごさを伝え、存在を認めてほしいという承認欲求の表れでもあります」

 擁護派もいる。ネットを通じて野々村氏に興味を持った女子大生(22)が言う。

「私の年齢でも人前で泣いたら恥ずかしいのに、子供のように泣きじゃくっていた。建前ばかり気にする大人が多いなかで、赤裸々に自分をさらけ出す純粋さがカワイかった」

週刊朝日 2014年8月1日号より抜粋