ドラマ評論家の成馬零一氏は、スペシャルドラマとして放送された織田裕二氏主演作品についてこういう。
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連ドラが終わって2週間くらいは、新番組に移行するための端境期です。その間、いくつかのスペシャルドラマが放送されるのですが、なかでも面白かったのは織田裕二が初めて日本テレビのドラマで主演を務めた『奇跡の教室』です。
舞台は、進学予備校・東京中央アカデミー。多額の借金を背負った、織田演じる僧侶・柳州二は、カリスマ予備校講師になることで借金返済を目論み、アカデミー講師に赴任します。しかし、そこはカリスマ講師たちがしのぎを削る弱肉強食の世界。柳は序盤で生徒たちの人気の獲得に失敗し、みるみる生徒数が減っていきます。巻き返しを図ろうと考えた柳は、他の講師陣の授業を分析するため、変装して受講します。そして、それぞれが独自の授業を展開して、人気を博していることに気がつきます。
お馴染みの『踊る大捜査線』の大ヒット以降、織田裕二は木村拓哉や福山雅治と並ぶ、名前で数字(視聴率)を獲得できるスター俳優となりました。しかし『踊る~』シリーズが終了し、40代を迎えた今、織田は新たなステージへ移行しようと試行錯誤しています。
『踊る~』の青島刑事のような当たり役を得られたことは役者冥利に尽きるでしょう。しかし、役者としてのイメージが固定され、芸の幅が狭まってしまう危険性も伴います。近年の木村拓哉や福山雅治は、パブリックイメージをあえて背負うことで〝偉大なるマンネリ〟へと向かっているかのようですが、彼らと違い、根っからの役者である織田は、『外交官 黒田康作』でクールな外交官を演じたり、『Oh,My Dad!!』で、気の弱いシングルファーザーを演じたりすることで、新境地を獲得しようと挑戦しています。
さて、学校の教師と違い、予備校講師たちは常に授業の面白さと人気によって実力を評価される立場にあります。生徒たちの厳しい評価に晒された予備校講師たちが、受講生の人数と授業の満足度をめぐって競い合うのが本作の面白いところです。作中には次々と個性的な予備校講師が登場し、まるで、必殺技を繰り出すように個性的な授業を次々と披露していきます。
他の講師のような個性や特別な授業テクニックが自分にないことを知った柳は、愕然として頭を悩ますのですが、やがて僧侶の家に生まれたという自分だけの個性に気づき、袈裟を着て、仏教を題材に現代文を教える“お坊さん講師”として教壇に立ち、はじめて生徒からの支持を獲得します。しかし、数週間後には生徒たちによる人気投票が迫っており、順位次第では、講師をクビになる可能性すらあるという絶体絶命の危機に追い詰められます。
その後、物語では柳の起死回生の逆転をかけた最後の授業が描かれますが、ドラマ自体は1学期の授業だけで終わり、講師同士の授業対決も中途半端でした。
そのため一本の作品としては不満が残るのですが、せっかく魅力的な舞台設定が作れた以上、是非とも続編を見てみたいものです。
※週刊朝日 2014年7月25日号