元・株式会社ライブドア代表取締役CEO、堀江貴文氏は無料のデジタル媒体を紙媒体にするときの“正解”についてこういう。

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 某ネットマンガアプリで人気のマンガが、紙でコミック化され、実売が期待したほどでもなかったという話を聞いた。

 とはいえ数万部は売れているそうだから、それなりには売れているんだろうけど、紙の雑誌で同じくらい読まれている作品はその数倍は売り上げるらしいので、なかなか無料のデジタル媒体から紙媒体にコンバージョンするのは難しい。

 私のメールマガジンが元になって発売された『刑務所なう。』シリーズや、『金持ちになる方法はあるけれど、金持ちになって君はどうするの?』などは、それなりの部数を出している。元が月額864円の有料メールマガジンである点は大きいだろう。メールマガジンを購読するほど関心があるわけではないが、それを抜粋した書籍をリーズナブルに読みたいというニーズがあるわけだ。

 そういう意味で、無料の媒体から有料の媒体にコンバージョンするのは非常に難易度が高い。だからこそ、「紙媒体でないと実現できない」という特典をつけなければならない。

 実際に無料のネットサービスでマネタイズに成功しているのは、一部のヘヴィユーザからの多くの課金額に頼るフリーミアムモデルか、広告収入というパターンしかない。無料の媒体から有料課金となるとフリーミアムモデルの応用ということになるだろう。

 
 つまり、無料の媒体にはない価値を付加しないと課金は難しいし、一部のヘヴィユーザにターゲットを絞らなければならないということになる。無料のマンガアプリから従来と同じ値段で買う紙のコミックスへ、というモデルはそれには合致しない。内容は無料版とほとんど変わらないわけで、わざわざ紙媒体で読むほどではないわけだ。

 となると正解は、無料版では見られなかったようなカットを多めに入れたり、値段が高くなっても上質な紙を使ったり、紙媒体ならではの付録をつけたりして、従来のコミックスよりも高付加価値で高価格の商品に仕立てあげ、コアなファン層に向けて販売するということになるだろう。

 また、フリーミアムモデルではユーザベースを大きくすることが大事なので、グローバル展開は欠かせない。日本国内向けだとせいぜい数千万人が対象だが、グローバルになると数十倍になる。課金者数も桁違いだ。そういう意味ではこれまでとは違った媒体作りのノウハウも必要とされてくるだろう。

 しかもネット媒体から紙媒体へのコンバージョンはかなりハードルが高いので、そちらも工夫が必要となる。アマゾンで本が売れたといっても、平均では全体の売り上げの10%ほどが現状だ。まだまだ紙の本はリアル書店で売れている。日本は電車通勤・通学のインフラが整っていたり、ロードサイドにも大型書店があるので、リアル書店で本を買う人が多いのだ。

 ネット媒体からリアル書店というのもかなりのハードルだ。ソーシャルメディアを活用するなりして努力していくしかないだろう。

週刊朝日  2014年7月18日号