今国会で憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使容認に躍起になっている安倍晋三首相。行使容認が緊急性を要しているとは思えないジャーナリストの田原総一朗氏は、本当の理由は他にあるのではないか、といぶかしむ。
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6月11日、今国会初の党首討論が行われた。中でも注目されたのは、民主党の海江田万里代表と安倍晋三首相の討論であった。日本維新の会の石原慎太郎共同代表、浅尾慶一郎みんなの党代表は、いずれも政府の解釈改憲による集団的自衛権行使に賛成しているからである。また、民主党内の海江田代表おろしの声を抑え込むために、海江田代表としては安倍首相から「得点した」と判断できる打撃を与えなければならないと意気込んでいたはずだからである。
海江田代表は、まず「長年の憲法解釈を正面から否定して、行使一般を容認する変更は許されない」とぶち上げた。公明党の山口那津男代表も同じ意見を表明していて、これは正論だ。ただ、主張をさらに深めるのかと思いきや、「この20日にも閣議決定するという情報が流れています。(中略)まさに拙速であります」と、国会審議の短さに論点がすべった。それで、安倍首相に「閣議決定したら直ちに自衛権が行使できるわけではない。法改正が必要だ。その際には当然、国会で審議いただく」と弁明する機会を与えてしまった。
何よりも迫力を欠いたのは、民主党はいったい、集団的自衛権の行使自体に反対なのか、それとも時間をかけて審議すれば合意するのか、姿勢をはっきり示さなかった、あるいは示せなかったことだ。
だが私はここで、海江田代表の討論が迫力を欠いたと批判して、ことが済んだと考えているのではない。
甘い質問で救われた形になったが、自民党の歴代首相は集団的自衛権の行使を認めてこなかった。日本は自国の平和と安全を日米安保条約第5条にゆだねており、なぜここにきて集団的自衛権行使に踏み切らざるを得ないのか理解できないのである。
政府が、集団的自衛権が必要なケースとして具体的な事例をあげればあげるほど、矛盾に満ちてしまう。そして、ほとんどのケースは周辺事態法で対応できるはずなのだ。
官邸や自民党の要人たちを取材しても、集団的自衛権行使になぜ今、これほど熱をあげなくてはならないのか理解できない。行使が必要な緊急事態だとは思えないのである。
現在の日米安保条約は、日本が危機に襲われたときは、米国の集団的自衛権を行使することになっている。ただし、米国が危機に襲われても、日本の自衛隊は動かない。片務条約である。いつまでも片務条約のままでは独立国として誇りが持てないから、双務条約にすべきだ。あるいは、世界の警察をやめたと公言している米国に参戦の念押しをするため、というのが安倍首相の本意ではないだろうか。
※週刊朝日 2014年6月27日号