中高年女性の間でヨーロッパひとり旅「ひとりっぷ」がブームとなっている。急増するひとり旅女子の危機対処法をベテランひとりっぱーでライターの寺田和代さんが伝授する。

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 20年間の「ひとりっぷ」歴では途方に暮れた経験も数知れず。ピンチの中身と自分なりの対処法を五つ。

 まず国際便の遅延と欠航。悪天候と機材不調のために予定通り帰国できなかったことが2度あった。空港内に不穏な空気が漂うや、情報や不安を分かち合えない「ひとりぼっち感」が募り、平常時ならなんとかなっていた英語力も急降下。アナウンスもろくに聞きとれない。

 助けになったのは、親切そうな人に「アナウンスが聞きとれなかったので状況を英語でゆっくり教えてください」と頼んだこと。丁寧に教えてくれ、そのことで少し落ち着けた。

 旅行保険に付帯できる「航空機遅延」保険に入っていたことも助けに。わずかな掛け金でホテル代などが2万円まで補償されるタイプだった。たまたま2度ともホテルは航空会社が手配してくれたけれど、手持ちバッグ一つで泊まらなければならず、飲み物や食べ物などの費用をまかなった。

 トイレ問題も女子には切実。カフェや美術館などでは比較的きれいなトイレが使えるが、観光地や駅では、有料トイレでも便座がない、あっても汚い、床が水浸し、カギが壊れている、など。

 対策といってもしれている。パンツの裾が床につかないようロールアップしてから個室に入るとか、中腰でトイレが使えるよう普段から大腿筋を鍛えておくぐらいだろうか。

 ひとりだと何となく飲食店やショップに入りづらい悩みは「とにかく自分から挨拶」で乗りきる。入ると同時にその国の言葉で「こんにちは」と挨拶すれば、たいがい店の誰かと目が合い、どうぞ、いらっしゃい、という反応が返ってくる。無言、勝手に、がいちばんNG。このファーストコンタクトが首尾よくいくかいかないかが、そこでの居心地を左右するといっていい。

 言語力不足は相手としかと視線を合わせ、身振り手振りで示せば相当カバーできる。「見つめ続ける」がポイント。それだけで相手も真剣にこちらの気持ちや意図をくみ取ろうとしてくれるからだ。

 一度だけスリにあった。リトアニアの首都ヴェリニュスの満員バスの中で50ユーロ入った財布を。街歩きのバッグにはいつもその程度のお金しか入れていないから大きな損失ではなかったとはいえ、被害にあったことがショックで、すぐにホテルにとって返し、女性スタッフに顛末を聞いてもらった。彼女に付き添われて近くの警察署に行き、被害届と保険会社に出す盗難証明書を作ってもらった。

 お金はもちろん戻らなかったけど、ホテルの女性と警察官の優しさ、そして日本人が珍しかったのだろう、署内にいた全員から一挙手一投足を、固唾(かたず)をのむようにして見つめられ続けた記憶が今はただ懐かしい。

 ともあれ被害にあったら小さなことと無視せず、自分の心のために手立てを尽くそう。結果的にそれが「ひとりっぷ」を楽しく、気軽に続けていく力につながる。

週刊朝日  2014年5月23日号より抜粋