福島県での取材から帰ってきた山岡士郎。ひどく疲れやすくなっていたが、ある夜突然、鼻から血が……。人気漫画「美味しんぼ」の描写が物議をかもしている。掲載は4月28日発売の週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)で、タイトルは「福島の真実篇その22」。福島第一原発を取材した主人公の新聞記者・山岡が、疲労感を訴えた後に鼻血を出す。福島県双葉町の前町長も実名で登場し、「福島では同じ症状の人が大勢いる」と言う。放射線の影響だと思う読者も多いだろう。

 これを受け、双葉町は5月7日、「復興を進める福島県全体にとって許しがたい風評被害」だとして、小学館に抗議文を送った。

「前町長の発言が風評被害を招いている、といった意見が十数件も町に寄せられたので、抗議しました。以前の調査では、鼻血が出た人が若干名いたという話はあったが、現在症状を訴えてくる人はいません」(双葉町役場の担当者)

 実際に風評被害なのか。日本大学歯学部の野口邦和准教授(放射線防護学)は、放射線との関係を否定する。

「低線量の放射線と鼻血などの症状との因果関係は、証明されていません。鼻血なんていうのは、しょっちゅう起こるわけです。関係ありません」

 ただ、実際に原発事故の後、鼻血を出す人はいたようだ。2011年の6~8 月にかけて、福島県内4カ所で問診会を開いたNPO法人「チェルノブイリへのかけはし」の野呂美加代表は、こう話す。

「問診会に来られた人や家族の3~4割は鼻血の症状がありました。他の症状は、口内炎や下痢などです」

 同NPOでは、チェルノブイリ原発事故で被災した子どもたちを日本で転地療養させる活動をしてきた。

「20年間で648人の子どもを招いていますが、彼らの症状も同じで、鼻血もよく出しました」

 科学的根拠はなくても、原因がはっきりしない症状があれば不安はつのる。福島県内に住むAさんは言う。

「11年夏ごろ、小学生の息子が一日に何回も鼻血を出すようになりました。寝ている間に出たり、遊びに出たら顔中真っ赤にして帰ってきたり。でも、それを大っぴらには話せない雰囲気なんです。相談できる相手も限られてしまって……」

「美味しんぼ」の福島編は5月19日発売号まで続くという。だが、何かしらの症状が出た人の不安は、その先もずっと続く。

週刊朝日 2014年5月23日号