本誌スクープ(5月2日号)から次々と千葉県がんセンターの医療死亡事故が発覚している。取材で浮き彫りになったのは、現場医師や患者遺族から同センターに調査を求める声が寄せられていたのに、それを無視。再発を繰り返していた驚くべき実態だった。

 千葉県病院局は5月7日までに、同センターの消化器外科で2008年から14年の手術で計9例の死亡事故があったことを発表した。そのうち、本誌が告発した同科のエース医師、A医師
の執刀が7例で別の医師が2例。いずれも腹腔(ふくくう)鏡手術によるものだ。

 同センターの麻酔科医として10年9月まで勤務した志村福子医師(42)は、本誌の記事を読んで、驚きながらもこう感じたという。

「あのときにちゃんと対応してくれていれば、これほどの死亡者は出なかった」

 志村医師の言う“あのとき”とは、4年前の10年夏のこと。実はこのころ、同科で再手術が頻発していて、複数の医師から問題視する声が上がっていた。志村医師もその一人だった。当時の状況を知る医師は言う。

 
「消化器外科に腹腔鏡手術をやめるよう、中川原章センター長(当時)に直訴した外科医もいた。安全性が確立されていない保険適用外の手術や、腹腔鏡の経験が少ない外科医が医療事故を起こしていたからです。それでも、手術中止には結びつかなかった」

 それどころか、問題点を指摘した志村医師は麻酔科医としての仕事を外され、退職に追い込まれた。その後、県病院局や厚生労働省にも内部告発をしたが、取り合ってもらえなかった。同センターの関係者はこう打ち明ける。

「このころから、消化器外科の問題に意見を言える雰囲気はなくなりました」

 管理態勢の改善の芽は、10年の時点で摘み取られてしまったのだ。同センターに意見を出していたのは、医師だけではない。

 遺族も真相究明を求めていた。県は1日、08年11月13日に腹腔鏡で胃を全摘出する手術を受けた58歳の男性が、09年4月2日に亡くなっていたことを発表した。同センターでは、医療事故によって入院日数が増えたときは「医療事故緊急対策会議」が開催される。ところが、この患者は手術から4カ月半後に死亡しているのに会議は開かれていない。「手術に問題はなかった」という認識だからだ。

 
 だが、実情は違う。本誌が入手した内部資料によると、患者は手術翌日に縫合不全で再手術をした。それが、持病もないのに手術中に心停止して意識不明の植物状態となり、そのまま回復しなかった、と記されている。また、執刀医はこの術式の経験が過去に1例しかなかった上、再手術で麻酔を担当したのは、なんと研修中の歯科医師だった。遺族はその事実も知らされていなかった。

 疑問を感じた遺族は11年9月、外部有識者を含めた事故調査委員会の設置を求める申入書を同センターに提出する。

 だが、対する同センターは、「御遺族の方々に十分な説明・対応をさせていただいたものと判断しております」と回答。事故調査委員会の設置を拒否した。

 繰り返し指摘されていたずさんな管理態勢は、なぜ、改善に向かわなかったのか。本誌が県病院局にこの件について尋ねると、「(5月中に設置の)検証委員会における検証の対象とすることとしております」との回答を寄せた。

 前出の志村医師は言う。

「調査では、死亡にいたらなかった再手術の数も公表すべきです。手術に問題がなかったのか、開腹手術と比較した場合の安全性なども明らかにしてほしい」

(本誌・西岡千史)

週刊朝日 2014年5月23日号