東大生の就職先といえば、これまでは官公庁や、都市銀行、大手商社などの大企業といった“お堅い”イメージが強かった。だが最近、創業間もない中小規模の企業にも数多くが入社しているという。

「ここ数年で、新卒でベンチャー企業に就職する東大生は確実に増えている。20年前は100人に1人だったが、12年度卒は10人に1人になりました」

 そう話すのは難関大学の学生のベンチャー企業への就職を支援する「スローガン」の伊藤豊社長(36)だ。自身も東大文学部卒。

 同社主催の企業説明会や就活セミナーに参加する東大生は08年のリーマンショック以降、明らかに増えた。06年度の30人程度から12年度は500人以上に。この数は東大を出て就職する学部生の2人に1人にあたる。

 スローガンは05年創業。伊藤社長は、ベンチャー企業の定義を「現状とその企業の目標との開きが大きく、その差をスピーディーに埋めようとしている会社」とし、創業年数や売上高などではとらえていない。その代わりに「経営陣が真面目で誠実」などの独自基準を設け、“優良”と判断した企業を学生とマッチングさせている。

 なぜ、東大生にベンチャー志向が強まっているのか。伊藤社長は分析する。

「『10年後の大企業』に成長しうる会社の創業間もない時期のメンバーになりたいと考える優秀な大学生が出てきた。いわゆる“失われた20年”に育った世代です。東日本大震災を経て、大企業にいれば安泰との気持ちは薄れ、『自分の力をつけて生き抜きたい』との思いが強い。難関大学の学生ほど、その傾向は顕著です」

 その一人が東大大学院を卒業後、ネットショッピングでの後払い決済を代行する「ネットプロテクションズ」で働く河西遼さん(25)だ。入社動機をこう語る。

「大企業だって、いつ大量リストラするかわからない時代。会社の寿命は個人よりも短く、一社に依存している状態が本当に安定しているか、疑問に感じました。『個』として市場価値を高められる環境に新卒時から身を置くほうが結果的に良いのではないかと」

 もちろんリスクはあるし、先がわからず手探りで進まねばならない。ただ、若いうちから挑戦し続けることで、個人の力を養えるような職場環境を選びたかったのだという。

週刊朝日  2014年5月2日号より抜粋