就職活動が本格化するなか、東大生が選ぶ勤務先に“異変”が起きている。いまや2人に1人が新卒からベンチャー企業を視野に入れているというのだ。
東大出身で富士通などをへて2011年にネットマーケティング会社「イノーバ」を起業した宗像淳(すなお)社長(38)は15年前に自分たちが味わった就活を振り返りつつ、今との違いをこう分析する。
「90年代後半はネットの普及率が低く、大学などのOBを頼って企業の雰囲気を知り、手書きはがきで応募していた。大企業以外にはアクセス方法がわからず、選択肢も少なかったんです。今はネットを通じて事業内容が調べられ、ソーシャルメディアで社長の考えにも触れられる」
ただ、自分で調べて企業に接触する就活は、情報収集力や判断力などが必要だ。こうした就活をする学生は、新卒一括採用にこだわる会社を選ぶ学生に比べて、自分の能力に自信を持っていることが多い。
「だから必然的に東大を始めとする難関大学に通う優秀な学生ほど、ベンチャー志向が高まる一つの要因ではないか」(宗像社長)
今春、東大経済学部を卒業してベンチャー企業に入社したタケシさん(23/仮名)は留学経験が大きい。大学3年秋から1年間、米国に留学し、帰国後の就活はIT系ベンチャー企業に絞った。
「あちらでは優秀な学生ほど『IT系ベンチャー』に注目するのは当たり前で、僕も強い興味を持った。少ない人数で莫大な価値を提供できるのも魅力。先日、フェイスブックが1.9兆円で買収した企業『ワッツアップ』の従業員数は50人ほどです」
タケシさんが、入社した企業に惹かれた理由は、成功すれば社会に与えるインパクトが大きい事業内容と、それによって得られる報酬の大きさだ。
難関大学の学生のベンチャー企業への就職を支援する「スローガン」の伊藤豊社長(36)は言う。
「大企業に入ることはある意味、先人が築いた『稼ぐ仕組み』のなかで働くことで、新たな『稼ぐ仕組み』を創る上での学びは少ない。さらに、仕組み自体が老朽化している場合が多い。新たな仕組みを創ることにこそ優秀な人材が必要だと気づいたエリート層が増えたのではないでしょうか」
※週刊朝日 2014年5月2日号より抜粋