STAP細胞の論文問題で理化学研究所の研究ユニットリーダー、小保方晴子氏が会見をした。それを見たジャーナリストの田原総一朗氏は、小保方氏一人の責任を強調する理研には、とある思惑があるのではないかといぶかしむ。
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小保方晴子氏が、4月9日に大阪市内で行った記者会見をテレビの中継で見た。記者会見は2時間半に及んだようだが、私が中継で見たのは約50分間である。翌日、記者との全やりとりは6種類の新聞で読んだ。
小保方氏は入院中だということで、最初に「多くの皆様にご迷惑をおかけしてしまったことを心よりお詫び申し上げます。また、責任を重く受け止め、深く反省しております」と、涙ぐみながら反省の弁を述べたときは、途中で倒れるのではないかと心配したが、どんどんしっかりした口調になり、さすがにユニットリーダーを務める女性だと、改めてたくましさを感じた。特に記者たちとの質疑応答になると、彼女の表情も口調も、重く大きな「敵」と戦っている、いわば闘志をみなぎらせたやりとりとなった。彼女は「STAP細胞はあります」と言い切り、「STAP細胞の作製に200回以上成功している」とも強調した。
記者の一人が、「小保方氏以外に作製に成功した例がない点が問題だ」と問うと、「そういう形でもやってもらったことはある」と、第三者の成功者の存在を示唆したが、その人物の名前は明かさなかった。また、STAP細胞実在の証拠となる二つの画像について、理研の調査委員会では、「改ざん」「ねつ造」と断定したが、小保方氏は、これらは「悪意のない間違い」だと説明した。
私は、科学の分野にはまるで自信のない人間なのだが、小保方氏の会見について、新聞各紙を何度読んでもすっきりしない部分が残った。どう考えても、STAP細胞が存在する根拠が示されたとは思えない。だが何よりも、4月1日に行われた理研側の調査報告は、大いに問題あり、というより無残な失敗だったと言わねばなるまい。
ところが小保方氏は9日の会見で、「もっとノートは存在する。突然調査委員に提出を求められ、そのときあったノートが2冊だった」と答えている。そして「ノートはハーバード大にも、こちらにもある。4、5冊はある」とも説明した。はっきり言って、こうなるとドロ仕合だ。そして、ドロ仕合となった責任の多くは理研側にある。肝心の小保方氏をまったく納得させられていなかった最終報告なんて、誰が見ても欠陥報告書であり、このような代物をつくった理研側の責任は重い。
実は、政府は4月に、研究開発を先導する特定国立研究開発法人を指定する法案を閣議決定する方針で、理研はその最有力候補だった。だから理研としては、責任を小保方氏一人に集中させ、他の理研関係者は一切不正には関与していないというかたちを取ろうとしたのではないか。仮に小保方氏が「改ざん」や「ねつ造」をしていたとすれば、それに気づかなかった共著者たちは、どこで何をしていたのか。逆にいえば、何をしなかったのか。
理研は責任を彼女一人になすりつけようとして、逆に捨て身の大変なしっぺ返しをくらったのではないか。
※週刊朝日 2014年4月25日号