3月28日に福島第一原発で作業員の死亡事故がまた、発生した。この一件で同原発にはドクターヘリが入れないという問題があることがわかった。ジャーナリストの桐島瞬氏が取材した。
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ドクターヘリとは、医療機器と医薬品を装備したヘリコプターに医師が乗り込んだうえで、重体患者のいる場所へ急行し、治療をしながらすばやく病院へ搬送するもの。1999年、茨城県東海村にあるJCOの核燃料加工施設で起きた臨界事故では、作業員が大量に被曝し、事故直後にヘリで千葉市にある放射線医学総合研究所に運んだ実績もある。福島県では福島市にある県立医科大学病院にドクターヘリが待機し、第一原発まで15分で到着する。いわき市の総合磐城共立病院までならわずか10分。一刻を争う治療が必要な負傷者が出たときの搬送手段として重要だ。
しかし、東電、消防に確認しても、第一原発の構内にドクターヘリは入れないという。4キロ離れた双葉町の郡山海岸の駐車場か、10キロ離れた福島第二原発で待機し、その間は救急車で搬送するのだ。
汚染水タンクが乱立し、震災前の場所が使えないこともあるが、構内に離着陸しない本当の理由はなんなのか。第一原発上空は現在、航空機が飛べない区域に指定されている。国土交通省にそれが原因かと尋ねると、即座に否定した。
「第一原発の中心地点から半径3キロ内、高度1500メートル以下は確かに飛行制限区域です。ですが、消防署などから救助依頼があれば、除外されます。それに昨年11月には航空法の省令を改正し、ドクターヘリならこうした機関からの依頼がなくても独自判断で離着陸できるようにしました」(航空局運航安全課)
どうやら法的には離着陸可能ということだ。となると問題は何なのか。
取材を進めると、ヘリの運航会社が、どこをどう飛ぶか、という決定権を握っていることがわかった。
福島のドクターヘリは県の事業だが、民間に運航委託をしていた。受託者の中日本航空が言う。
「法的に行けても、最終的に決めるのは弊社です。いまは原則として第一原発から20キロ以遠で放射線量が高くない地域にしか離着陸しません。理由は操縦士を危険から守るためです。帰還困難区域にある第一原発には、当然行きません」
同社によると、帰還困難地域には降りないが、居住制限区域と非難指示解除準備区域内で、あらかじめ調整された場所であればこの限りではない、という。
郡山海岸の駐車場は帰還困難区域に接する非難指示解除準備区域のため、離着陸場所として利用することにしたという。現在こうした会社の判断に、依頼者である県は口を挟んでいない。
だが、ドクターヘリが県の事業である以上、行政が解決策を考えるべきではないだろうか。
「最近では第一原発の中にも、サージカルマスクで移動できる放射線量の低い場所もできてきた」(作業員)といい、こうした場所を選べばヘリの離着陸も可能ではないか。
何より、消防署の救急隊員は要請があれば第一原発の内部まで救急搬送に駆けつけるのに、同じ地方公務員である県立医大病院の医師を乗せたヘリは行かない。これはどう考えてもおかしい。第一原発では、震災後の復旧作業でけがをした作業員が120人を超えた。長い廃炉作業が続く中で、しっかりとした救急搬送態勢の確立は欠かせない。
日本維新の会の松田学衆議院議員が言う。
「いまの状況は国が義務を怠っているとしかいえません。防災計画をきちんと定めて、ドクターヘリも体系的に機能するようにするべきです。そうでないと作業員の方々も安心して働けないでしょう」
原発再稼働を急ぐ前にやるべきことは山ほどある。
※週刊朝日 2014年4月18日号