より複雑で、多様化した抗がん剤治療のかじ取りをするのが、抗がん剤治療に精通したスタッフだ。最近は専門の医師(がん薬物療法専門医)、看護師(がん看護専門看護師、がん化学療法看護認定看護師)、薬剤師(がん専門薬剤師、がん薬物療法認定薬剤師)らがチームを組んで、治療にあたる。
「いい抗がん剤治療に必要なのは総合力」
と話すのは、国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)副院長(呼吸器内科長)の大江裕一郎医師だ。
「抗がん剤治療は薬の種類も投与法も、ある程度決まっています。だから職人のような“名医”は必要ない。むしろ専門の医師と看護師、薬剤師がそろっているとか、通院で抗がん剤治療が受けられるとか、そういう環境のほうが重要です」
このチーム医療のなかで、医師は患者の診察と治療方針の決定など総合的な部分にかかわる。基本的な副作用対策や体調管理などを担当するのは看護師、薬のプロという視点から、副作用対策や服薬指導に携わるのが薬剤師だ。
「看護師や薬剤師につながるホットラインでは、専門性の高い看護師や薬剤師がその場で判断し、患者さんにアドバイスする。医師に相談するケースは1割程度です」(大江医師)
県立広島病院(広島市)の臨床腫瘍科では、一般的には別々のところにあることの多い入院病棟と、通院治療ができるスペースを、一角に集中させた。「専門医と専門の看護師、薬剤師がつねに近くにいるので、それぞれの仕事に対してチェック機能が働く。安心、安全な医療を提供できるようにしている」と同科主任部長の篠崎勝則医師は話す。
同科では服薬指導や副作用対策の説明は、看護師や薬剤師が主に担当。看護師や薬剤師のそれぞれの役目を果たせるようになったことで、医師は本体の業務に集中できるようになった。その一つがインフォームド・コンセントの充実だ。
「治療を始めるとか、打ち切らなければならないとか、時間をかけて説明する必要がある患者さんやご家族への説明をする際、これまでは夕方以降に時間をつくってもらっていました。いまは昼間にあまりお待たせすることなく説明できるようになりました」(篠崎医師)
看護師や薬剤師はどう考えているのか。現場で活躍する看護師や薬剤師の話も聞いた。
近畿大学病院看護部のがん看護専門看護師、長尾充子さんは、大学院で学びを深めて得た知識と、自身の病院での経験をもって、患者や家族が主体的に治療に参加するための支援を実践する。「医師と患者をつなぐのが、専門看護師の大きな役割」と言う。
「抗がん剤治療は治療期間が長い。最初は強い意志で始めても、途中で気持ちが揺らいだり、抗がん剤の副作用に悩んだりすることもあれば、先々に対しての不安を覚えたりすることもあります。そういう患者さんの思いに寄り添い、それを医師に伝え、患者さんにとってベストな選択を考えていきます」
同院のがん専門薬剤師の藤原季美子さんは、抗がん剤と一般薬の飲み合わせや、持病や体調と薬の関係などを細かくチェックする。
「同じ薬でも健康状態がいい人と、悪い人とでは代謝の仕方が違い、とくに腎機能や肝機能が悪い人は、ふつうでは問題ない薬でも思わぬ重い副作用が出てしまうことがある。そういう問題が起こらないよう、気をつけています」(藤原さん)
そんな藤原さんは、専門性が必要な仕事にもかかわらず、抗がん剤に詳しい専門の薬剤師がいることを、一般の人があまり知らないことを残念がる。
「患者さん自身やご家族が抗がん剤治療を受けている病院にがん専門薬剤師がいたら、もっと頼ってほしいですね」
※週刊朝日 2014年4月4日号