モルガン銀行東京支店長などを務め、“伝説のディーラー”の異名をとった藤巻健史氏によれば、日銀は「公定歩合(日銀が民間金融機関に資金を貸し出す基準金利)の上げ下げ」に関しては、「うそをついてもいい」という。

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 勢いをなくしつつある景気動向を見て、マーケットが日銀にさらなる量的緩和(市場に出回るお金の量を増やして景気の底上げを図る金融政策)を催促していると言われる。

 しかし、忘れてはならない。黒田東彦(はるひこ)・日銀総裁は昨年4月、「異次元の量的緩和」を始める際に「政策の逐次投入はしない。できることは、すべていま、ぶつける」と宣言したのだ。よもや、あのときの発言はうそで、「まだ政策余力は残っている」なんて言いださないでしょうね。公定歩合ではないのですからね。

 うそをつけば、いくら「次回が最後だ」と宣言しても「うそだろう、さらなる緩和をやるはずだ」と、マーケットからの要求が途切れなくなる。さらに危険なのはハイパーインフレを起こしてしまうリスクだ。

 平時にお金をジャブジャブにした中央銀行は、かつてない。戦争中に軍事費調達のためにした例はあるが、その後ハイパーインフレに悩み、新紙幣発行・預金封鎖という暴力的な資金吸収に追いやられている。日本でも1927年と46年に起きている。理由が戦争だろうが、景気回復のためだろうが、このリスクに変わりはないはずだ。

 今回の量的緩和では、日銀が10年満期を中心に30年満期という超長期の国債まで買っている。保有国債の満期を待ってバランスシートを縮小する(=お金の供給量を絞る)「出口戦略」を採ろうにも、満期ははるか先だ。保有国債がほぼ短期のみだった時代とは、まさに異次元の世界にいる。

 アベノミクスが成功して景気がよくなり、インフレが始まっても、国債の満期によってお金を吸収する、つまりお金の価値を上げて物価を下げるというコントロール手段は採れない。

週刊朝日  2014年3月14日号