東日本大震災から3年の節目にあたり、「今からが自殺の危機が高まる時期だ」と憂える声が上がり始めている。震災から時間が経つに従って、死別や病気、失業、多重債務など、新しい困難な状況が生まれ、それらが重なって被災者を追い詰めることへの懸念だ。実際、阪神大震災翌年の1996年には神戸市で202人だった自殺者が、3年目以降、260人、376人、386人と年を追うごとに増加した。解決の糸口はあるのか、フリーライターの山川徹氏がリサーチする。
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新潟県精神保健福祉協会こころのケアセンターは、中越地震後にまとめた自殺の実態報告書で、こう指摘する。
<(震災の被害とは)転居によって住み慣れた環境を喪失したり、災害活動の疲労が加齢に加わることで体調を崩すといった、間接的なダメージによって、ある程度時間が経過してから現れることもある>
「阪神・淡路大震災では3年ほど経った時期に『喪失感を改めて実感した』と語る被災者が大勢いたんです。東北の被災地では、さらなるサポートが必要となってきます」
そう語るのは「あしなが育英会」に28年間勤務し、NPO法人自殺対策支援センター・ライフリンク副代表を3年前まで務めた西田正弘さん(53)だ。いまは仙台市に拠点を構えるNPO法人「子どもグリーフサポートステーション(以下、CGSS)」の代表を務める。
活動内容は、震災で親を亡くした子どもたちに加え、それ以外の事故や病気で親を亡くした子どもたちへの支援だ。仙台市と陸前高田市でそれぞれ月2回ずつ、遊びのなかで心を解放し、同じ体験をした友人と出会わせる日帰りプログラムを実施する。多いときには25~26人が集まってくるという。グリーフとは、大きな喪失を経験したときに押し寄せる、悲しみや苦しみなどの感情のこと。
「それらを抑え込まず、体験を話したり、絵を描いて表現したり、ときには暴れたり泣いたりしたっていい。彼らが感情を表に出しやすいように手助けし、安心できる場を提供するのが私たちの役目。喪失に伴う哀惜は病気ではなく、自然な感情だと、本人はもちろん、周囲の人にも理解してもらいたい」(西田さん)
CGSSは子どもの学習支援のほか、親からの相談も受けている。法律や経済、健康面については医療機関や司法書士などと連携しながら解決をはかる。
「喪失体験によって人生、そして生活の土台が崩れている状態の人は多い」と、西田さんは警鐘を鳴らす。
「大切な人の死と向き合うのは時間が必要ですが、生活の土台再建に最も必要なのはスピード。まずは生活の土台を再建しなければならない」
※週刊朝日 2014年3月14日号