他人のパソコンをウイルスに感染させて遠隔操作した事件で、威力業務妨害やハイジャック防止法違反などの罪に問われた片山祐輔被告(31)の初公判が2月12日、東京地裁で開かれた。
「徹頭徹尾、事実無根」と片山被告は無罪を主張。「4人が誤認逮捕されたこの事件、自分は5人目の誤認逮捕だ」と全面的に争う姿勢を見せ、検察の冒頭陳述を受けて自ら約60分間も反論した。
報道機関などに「犯行声明メール」が送り付けられ、世の中を騒がせたこの事件。とりわけ大きな反響を呼んだのが、真犯人を名乗る人物から昨年1月5日、報道機関に届いたメール。江の島の野良ネコに、犯人につながるヒントを取り付けたという内容で、実際に江の島で「グレイ」と呼ばれるネコのピンクの首輪から、メモリーカードが見つかった。
グレイに首輪を取り付けた人物こそが犯人。それが片山被告なのかが、裁判の大きな争点である。
検察は、冒頭陳述で江の島の広場で1月3日午後3 時過ぎに片山被告がマイクロSDカードがついた首輪をグレイにつけたと述べ、<周囲の様子をうかがいながら両手で作業。(グレイを) 撮影した写真を確認してガッツポーズ>という防犯カメラのビデオ映像を法廷で公開した。
リュックサックに手袋という姿の片山被告がベンチに座る様子が小さく映る。
「背を向け首輪をつけています」と検察側は説明するが、ピンクの首輪は確認できず、取り付けているのか映像からは判別できない。
そして、ベンチから立ち上がり、グレイの写真を撮り終わって歩き出す片山被告の動作について、「ガッツポーズです」と検察側は主張したが、左腕がやや動いただけで、とてもガッツポーズには見えなかった。
片山被告は映像について、
「防犯ビデオはもっと鮮明なはず。元データを出してほしいと言っているのに検察側は応じない」
「グレイを撮影したか記憶は鮮明でない。はっきり言えるのはネコの首輪を買ったりつけたりしていないこと」
と主張。最後には、「市中引き回しの刑も同然。江戸時代よりひどい」と、ときに涙声になりながら訴えた。
片山被告が求めた取り調べ中の録音・録画もされず、昨年2月の逮捕から片山被告の勾留は続いている。傍聴したジャーナリストの江川紹子さんは言う。
「捜査が終わって起訴された被告を勾留し続け、接見禁止までしている検察のやり方はひどい。証拠の脆弱(ぜいじゃく)性の裏返しでしょう」
歴史的な“劇場型犯罪”は、法廷でも異例な展開を見せてきた。
※週刊朝日 2014年2月28日号